日本大百科全書(ニッポニカ) 「エニセイ碑文」の意味・わかりやすい解説
エニセイ碑文
えにせいひぶん
南シベリアのエニセイ川上流および西北モンゴルで発見された古代トルコ語碑文。5~9世紀にこの地方に居住したキルギス民族の地方的支配者の墓碑(ごく少数は岩壁にも刻まれている)で、短文が多く、死者自身が自らの生前の功績を述べ、自分の死を悲しむという独特の形式をとっている。この形式は、死者(死霊)がシャーマンの口を通じて一人称で語る伝統に由来するものと思われる。突厥(とっけつ)文字で記されているが、オルホン碑文のそれと字体を異にするものがあるのは、主として地域的差異に基づくのであろう。現在100片以上みつかっているが、新しいものが続々発見されつつある。
[護 雅夫]
『護雅夫著『古代トルコ民族史研究Ⅰ』(1967・山川出版社)』