古代チュルク語に属する突厥語やウイグル語を表すのに使用された文字で,突厥文字を用いて記された碑文を突厥碑文という。形態が古ゲルマン人のルーン文字に似ているところから,チュルク・ルーン文字ともいう。突厥文字は1893年にデンマークの言語学者V.L.P.トムセンによって解読された。基本的な文字の数は38あり,右から左へ向かって読む。これらの文字のうち,純粋に字母文字として扱えるものは少なく,たいがいは単一音価とは別に母音+子音の複合音価をも表示する。すなわち音節文字的機能を共有している。また,子音+子音の複合音価を表示するものもある。文献の種類により字数や形態に多少の違いがみられる。手書き文献の中には表意文字として機能する文字もある。突厥文字はトムセン以来アラム文字に由来するとされてきたが,現在では直接にはソグド文字(ソグド文献)を経由して発達したと考えられている。ただし,突厥自らが考案した文字もかなり含まれている。
執筆者:庄垣内 正弘
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突厥,クルクズ(クルグズ)などの古代トルコ民族がつくり,オルホン碑文,イェニセイ碑文などに用いた文字。岩壁や容器の上に刻まれたものもある。デンマークのV.トムセンによって1893年に解読された。大部分はセム語系のアラム字母にもとづいているとされたこともあったが,またソグド文字に手を加えて成立したともいわれ,矢や月の形をかたどって新しくつくり出したものもある。イェニセイ碑文の文字のほうが古い。音韻そのほかの点でトルコ語に巧みに適合させられているので,この文字の制作は,突厥碑文が建設された8世紀を相当さかのぼるかもしれない。ロシアの学者のなかには5世紀の制作とするものもある。
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突厥碑文で用いられている古代トルコ文字。新しく創出されたいくつかの文字を除き、大部分はセム語系のアラム字母に基づくとされるのが通説であるが、最近の研究によると、突厥文字の起源はソグド文字にあると思われる。音韻その他の点でトルコ語に巧みに適合しているので、この文字の採用は突厥碑文の立てられた8世紀をかなりさかのぼると思われる。5世紀ごろの採用と考える学者もいる。1893年デンマークの言語学者トムセン(1842―1927)が解読した。
[護 雅夫]
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…6世紀半ばごろ,突厥(とつくつ)第一帝国の3代木杆可汗の弟,地頭可汗に併合され,急速にトルコ化が進行したもようである。突厥文字を使っていわゆるエニセイ碑文を残したものもキルギス族であった(突厥碑文)。8世紀初め,彼らは突厥第二帝国の2代可汗黙綴によって討たれたが,この間の事情はキョル・テギンKöl Tegin碑文などの突厥碑文によってもqïrqïzの名と共に知られる。…
…すなわち,前イスラム時代のソグド商人(ソグド人)などに代表されるオアシス都市の商人たちは,突厥,ウイグルなど遊牧国家の内部深くにくいこみ,遊牧国家の軍事力を背景に,中国~モンゴリア間の貿易を独占するなど,その商業的活動圏を,国際的スケールのものに拡大するのに成功している。一方,これらの商人たちは,商品とともに宗教・文字など,オアシス定住地帯の文化をも遊牧国家内にもたらし,それが遊牧地帯の文明化に大きな影響を及ぼしたことは,ソグド商人の影響下に,遊牧民によって突厥文字,ウイグル文字などが作成・使用されたことからも明らかである。 中央アジアにおいて,中央アジアを本拠とする最も強力な国家が出現したのは,9~10世紀のサーマーン朝,14~15世紀のティムール朝の時代などであるが,これらの国家が強力であったのは,これらの国家の内部で,遊牧民の軍事力と定住民の経済力とが最もスムーズに結び合わされ,そこに巨大なエネルギーが生み出された結果であったと考えられる。…
…突厥は6世紀後半,モンゴリアの東突厥と中央アジアの西突厥に分裂し,前者は中国の隋・唐両王朝,後者はササン朝ペルシア,ビザンティン帝国と種々の関係をもったが,結局,唐王朝の攻撃を受けて弱体化し,8世紀半ば,もともと突厥の支配下にあったトルコ系ウイグル族によって滅ぼされた。突厥はトルコ民族がアジアの草原地帯に建てた最初の強力な遊牧帝国であっただけでなく,トルコ民族として,初めて自らの文字(突厥文字。古代トルコ・ルーン体文字)を用いていわゆる〈突厥碑文〉を残した民族としても,トルコ文化史上にきわめて重要な足跡を残した。…
※「突厥文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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