オミナエシ(読み)おみなえし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オミナエシ」の意味・わかりやすい解説

オミナエシ
おみなえし / 女郎花
[学] Patrinia scabiosifolia Link

オミナエシ科(APG分類:スイカズラ科)の多年草。別名オミナメシ。茎は直立し、高さ0.6~1.5メートルで毛がある。葉は対生し、羽状に全裂し、裂片に粗い鋸歯(きょし)がある。8~10月、上部の枝分れした先に黄色い小さな花が多数群がって散房状となる。花序の枝は一側に白い短毛を密生し、花冠は5裂する。果実は楕円(だえん)形で平たく、オトコエシのような翼はない。名は、オトコエシに対して全体が優しい感じであることによる。オミナメシの名は、花の色を粟飯(あわめし)に見立てて付けられたともいう。小さな黄色花が固まってつくことからアワバナ(粟花)、ムシアワ(蒸粟)とよばれることもあった。漢方ではオミナエシの根を敗醤(はいしょう)とよんで薬とするが、中国名の敗醤はオトコエシのことである。地方によっては盆花と称し、切り花を仏前に供える風習があり、栽培もされる。北海道、本州、四国、九州の丘陵帯から山地帯の草原に生え、東アジアに広く分布する。オミナエシ属は多年草で、花は黄または白色、雄しべは4本、多くは果実に翼ができる。20種が東アジア、中央アジアに分布し、日本に8種が分布する。

[高橋秀男 2021年12月14日]

栽培

日のよく当たる水はけのよい所でよく育ち、堆肥(たいひ)などの有機質を十分に与えるとよい。秋から春先に親株の周りに出た子苗を切り離し、40センチメートル間隔で植え付ける。長年同じ場所に植えておくと株消えがおこりやすいので、子苗をとり、親株とは別の場所に植えておくとよい。実生(みしょう)でもよく育つ。

[鳥居恒夫 2021年12月14日]

伝承

秋から古くから歌にも詠まれ、『万葉集』には14首あり、山上憶良(やまのうえのおくら)はこの花を秋の七草の一つに詠む。『万葉集』には女郎花の字以外に、娘子部西、姫押、佳人部為なども使われる。また、鎌倉時代の僧宗碵(そうてい)の『藻塩草(もしおぐさ)』は、平城(へいぜい)天皇(在位806~809)の時代、自分の愛した男が別の女と結婚すると聞いて、世をはかなんで川に身を投げたという女が脱ぎ置いた山吹(やまぶき)重ねの衣から、女郎花が咲き出たとの伝説をあげている。

[湯浅浩史 2021年12月14日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「オミナエシ」の意味・わかりやすい解説

オミナエシ (女郎花)
Patrinia scabiosaefolia Fisch.

日当りのよい山野の草地に生えるオミナエシ科の多年草。秋の七草の一つとして古来より親しまれ,切花にされたり庭に植えられたりする。語源はよくわかっていないが,女飯(おんなめし)の意味で,花を粟飯(あわめし)にたとえたとする説がある。茎は直立し60~100cm。葉は対生し羽状に深く切れ込む。花は茎の先に多数つき散房状となり,8~10月に咲く。花冠は黄色,直径3~5mm,5裂する。おしべは4本。子房は下位,3室のうち2室は退化し,1室に1種子ができる。北海道から九州,さらに朝鮮,中国,シベリア東部に広く分布する。近縁のオトコエシP.villosa Juss.はオミナエシのオミナをオトコに対照させた呼名で,全体に毛が多く花は白色,果実には苞が発達した翼がある。両種とも,においが腐った豆醬(とうしよう)(豆で作ったひしお)に似ているため中国では敗醬の名があり,オミナエシやオトコエシを生けたあとの水には悪臭がある。薬として消炎や排膿などに用いられた。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android