改訂新版 世界大百科事典 「カサゴ」の意味・わかりやすい解説
カサゴ (笠子)
カサゴ目フサカサゴ科に属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。フサカサゴ科Scorpaenidaeは別名カサゴ科ともいい,日本産としてはカサゴ,メバル,ハチ,ユメカサゴ,ヒオドシ,ミノカサゴ,フサカサゴ,アコウダイ,バラメヌケ,シロカサゴなど72種に及ぶ種類を含む。英名は体型や体色からrock fish,scorpion fishといわれるが,後者は頭部のとげや突起に触れると痛いこと,および仲間にハチやミノカサゴのような毒魚がいることからも名付けられたものであろう。フサカサゴ科の魚は沿岸から深海にいたる岩礁地帯や砂れき底に生息するものが多い。世界各地から数百種に及ぶ種類が知られているが,とくに日本近海では暖海種と寒海種が入り混じるので種類数も多い。繁殖法は2通りあり,ミノカサゴやキチジなどは卵生型で,メバルやカサゴは卵胎生型である。多くの種類は食用となるが,ミノカサゴやハチのように食用とはならないものの観賞魚として珍重されるものもある。この両種は背びれのとげに毒があることでも有名である。
カサゴSebastiscus marmoratusは北海道南部以南の日本各地の沿岸域,東シナ海域に広く分布する。磯や沖合の岩礁地帯で生活するが,沿岸地帯にすむものは黒褐色を帯びるのに対し,深みにいるものは赤みが強い。周囲の環境に合わせて色合いや模様を変え,巧みに自分の体をカムフラージュする魚の典型といえる。カサゴの名は皮膚がかさかさして体にはれもののような模様があることに由来しているといわれる。九州ではアラカブ,関西ではガシラなどという。ふつう体側には5本の黒褐色の横帯がある。近縁のメバル属の魚とは背びれに12棘(きよく)あることで区別される。アヤメカサゴS.albofasciatusとは胸びれの軟条数がふつうは18本(アヤメカサゴは17本)であること,および第2眼下骨にとげがないことで区別されるが,生息場所も異なり,アヤメカサゴはカサゴよりもやや深いところで生活し,体色も赤黄色を帯びる。体長はともに25cmに達する。
カサゴは卵胎生魚で,雄には肛門付近に輸精管と輸尿管がのびてできた交接器がある。雌雄ともにほぼ2~3年で成熟するが,雄は9~10月に精巣が急激に大きくなり精子形成が行われるのに対し,雌では11~12月に卵巣が急激に熟する。交尾は雄が成熟する10~11月にかけて行われ,雌の体内に入った精子は卵の成熟を待って受精する。子は3~4回に分けて生み出される。1回に生まれる子の数は2年魚で5000尾,3年魚以上では1万3000~1万5000尾である。産出時期は11~3月に及ぶが,とくに12~2月が最盛期で,子の大きさはわずか数mmほどである。生後満2年くらいまでは雌雄ともにほぼ同じ早さで成長するが,それ以後は雄のほうが成長が早くなり,生後4年で20cmを超える。一方,雌は生後6年たってやっと20cmほどに達し,以後は少ししか成長しない。移動をほとんど行わず,ほぼ生まれた地域で生活するものと考えられるが,成長によって多少深場に移動する傾向がある。群れをつくらず,むしろなわばりを形成する。岩の割れ目などに身を潜め,近づいてくる小魚,カニ類,エビ類などを大きな口でとらえて食べる。
磯釣りの絶好の対象であり,比較的簡単に釣れるので,子どもからおとなまでに広く親しまれているが,海岸近くでとれるものは体色が黒っぽくやや汚く見えるので,〈つらあわず〉などといわれることがある。また,〈磯のカサゴは口ばかり〉とその大きな口について悪口をいわれるが,味はきわめてよく,新鮮なものは刺身で賞味される。このほか,底はえなわや一本釣りなどでも漁獲される。しゅんは雌の産子期にあたる冬で,肉は白身で身が引き締まりあっさりとした味で,煮つけや塩焼きにするとおいしい。瀬戸内海地方ではとくにカサゴを好んで食べる。
執筆者:谷内 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報