カシミール美術(読み)カシミールびじゅつ

改訂新版 世界大百科事典 「カシミール美術」の意味・わかりやすい解説

カシミール美術 (カシミールびじゅつ)

インドの北西部ヒマラヤ山系のなかにあるカシミール地方の美術。インド中央部,ガンダーラチベット,中央アジアとの交流が密接であるとともに,奥深い峡谷にあっては独特の文化が永く保持された。スリーナガルの北北東11kmのハルワンには石積みの塔・祠堂・僧院などからなる仏教寺院址があり,クシャーナ朝時代から数世紀続いたと考えられている。祠堂の中庭には動植物や人物を浅浮彫した精巧な素焼粘土のタイルが敷かれていた。パーンドレーターンウシュクルギルギットなどにも寺院址があり,塔の形式やテラコッタ像の作風からガンダーラとの密接な交渉がうかがえる。またギルギットのある仏塔からは7~8世紀の多数のサンスクリット語仏典写本が発見された。さらに6~11世紀にはブロンズ彫刻も栄えた。ヒンドゥー教は7~8世紀以後勢力を伸ばし,マールターンドやパーンドレーターンの石積寺院はそれぞれ8世紀中期と12世紀前期に造営された代表的遺構である。いずれもこの地方独特の形式をとり,方形で急勾配のピラミッド型屋根をのせ,四面には三葉形アーチの上に三角破風をつけている。14世紀以後はイスラムが優勢となり,1589年にはムガル帝国に編入され,多くのモスクや廟墓が造営され,木造建築も発達した。現在のジャンムー・カシミール州の北東端のヒマラヤとカラコルムの両山脈に囲まれたラダク(ラッダーク)地方では,チベット仏教が今も盛んに信仰され,レーLehの町を中心に多くの寺院(ゴンパdgon-pa)が活動を続けている。これらの寺院にはマンダラ(曼荼羅)をはじめとする尊像画や説話画などの壁画が豊富にあり,特にアルチ・ゴンパのそれがすぐれている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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