改訂新版 世界大百科事典 「説話画」の意味・わかりやすい解説
説話画 (せつわが)
仏教説話に淵源を有する絵画をいうが,語自体は新しい。仏教説話は仏伝,本生,譬喩(ひゆ)説話に大別されるが,それらはインドにおいてストゥーパのレリーフや壁画などに造形され,西域,中国に流伝し,各種の浄土図にも及んだ。これら説話画は,漢訳経典においては〈変〉〈変相〉と称され〈変現〉の意味を有する(変相図)。唐代になると〈変〉は仏教説話に限らず,世俗的題材の説話美術にまで拡大された。また説話画といわれるゆえんは,これを前にして大衆に絵解きをする風習があったことによる。敦煌文書中に発見された白話体(俗語)で書かれた説明(絵解き)台本の〈変文〉は,俗文学の資料のみならず〈変相〉への展望が開かれた点で重要である。日本では中宮寺の《天寿国繡帳》,《玉虫厨子》絵の本生変,《当麻曼荼羅》の観経変相,釈迦伝図様の《絵因果経》や《釈迦八相図》,その展開としての法隆寺絵殿障子絵の《聖徳太子絵伝》,六道絵や十界図,法華経二十八品の変相など各種の絵画が,大陸説話画の系譜にとらえられる。また,《志度寺縁起》などの掛幅縁起や絵伝類がつくられるようになる。
説話の時間的変転を表現するのに格好の絵画形式は絵巻物である。日本の絵巻は,詞書に対する挿絵的な発想として生まれたもので,詞が主で絵が従であるとするのが従来の考え方であった。しかし説話画なるものが,大画面〈変〉とその絵解きである〈変文〉とから生じたとする説話画の発展過程からとらえなおすとき,詞書のない絵だけの《信貴山縁起》上巻や,大画面のみの掛幅縁起類や絵伝の存在が新たな意味をもってくる。つまりこれらは絵と詞を交互にくりかえす絵巻とは異質的なものにみられてきたが,別に絵解きの詞書が存することが明らかになることによって,大陸伝来の説話画という大概念のもとに,日本の絵巻も絵が主で詞が従であるとする統一的な把握が可能になったといえるのである。
執筆者:石田 尚豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報