〈終止形〉を意味する音楽用語であったが,16世紀末ごろから終結部におかれた即興的な技巧的楽句の意味で用いられるようになった。この技巧は18世紀のオペラにおいて発展をみせたが,とくにA.スカルラッティをはじめとするナポリ楽派のオペラにおいてはひとつの様式感を形成するまでに至った。そのカデンツァは即興性を特徴とし,結尾部(コーダ)に入る前の4-6の和音の上に行われるのが通例であった。これは後の古典派以降の協奏曲のカデンツァの場合と同様である。一方,バロック時代においては器楽の隆盛を背景にトレリやビバルディらの独奏協奏曲にもカデンツァがみられる。このころのカデンツァは名人芸の誇示の色彩が濃いものであったが,つづく古典派,ロマン派のとりわけ協奏曲においては,楽曲の重要な構成要素のひとつとして大きな意味を与えられ,主題の動機型を発展させる場合が多い。カデンツァは演奏者の即興演奏にゆだねられることが通例であったが,このころから作曲者自身がカデンツァを作曲する例もみられ,ロマン派に入るとむしろ作曲者がカデンツァを書き込むのが通例となった。今日,カデンツァの書き込まれていない楽曲を奏する場合,他の音楽家が別に作曲したものを使用することが多く,とくにバイオリン奏者のヨアヒムなどは,多数のカデンツァを作曲している。ロマン派の標題つきの小品(キャラクター・ピース)などにおいて,楽曲の結尾の華美で即興的な部分にこの名を付した例もある。
執筆者:西原 稔
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音楽用語。
(1)和声終止形のこと。和声終止形には、大別して、完全終止、不完全終止、偽(ぎ)終止の3種類がある。完全終止とは、基本位置での属和音と主和音の連続をさし、厳密には上声部が強拍で、主音をとる場合に限られる。また、基本位置での下属和音と主和音の連続も含むことができる。楽曲の終わりや各部分を閉じる箇所に用いられ、満足な完結性を与える。不完全終止とは、どちらか一方が転回形の属和音と主和音の連続をさすが、英語の慣用では半終止もこれに含める。半終止とは、通常、主和音から属和音への進行をさすが、主和音以外の和音からの進行も含まれる。半終止は、大楽節構造における前楽節のようなフレーズの切れ目に置かれ、後続部分への連結性をもっている。偽終止とは、属和音から主和音以外の和音へ行く終止で、Ⅵ度の和音への進行が代表的である。フレーズの途中にあって軽いくぎりとなり、終止感というよりは、むしろ終止の期待を裏切る効果をもっている。
(2)カデンツァ・フィオリトゥーラcadenza fiorituraやカデンツァ・ディ・ブラブーラcadenza di bravuraの略。独奏者や独唱者の名人芸的技巧を示すべく、コーダ(楽曲終結部)の前に挿入された装飾的楽句をさす。元来、演奏者の即興演奏であったが、ベートーベン作曲のピアノ協奏曲第5番(「皇帝」)あたりから、作曲者によって書かれるようになった。
[黒坂俊昭]
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… 主題を与えられて行う即興演奏は,古典派,ロマン派の時代に入ってからも盛んに行われ,タルティーニ,クレメンティ,モーツァルト,ベートーベン,リスト,パガニーニなど即興演奏の名手が続出した。18,19世紀の協奏曲のカデンツァは,演奏家の自由にゆだねられた部分で,このカデンツァの部分は,各演奏家が自分の高度なアクロバット的な名人芸をくりひろげる場になった。しかし19世紀の後半から,内容の空虚な技巧中心の即興演奏に対して反省がなされるようになり,演奏は,楽譜に忠実な再現行為であるという主張が主流を占めるようになる。…
※「カデンツァ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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