翻訳|canoe
急流に設置されたゲートをくぐり抜けながらタイムと得点を競うスラロームと、流れのない穏やかな水上で一斉にスタートし、直線コースで順位を競うスプリントがある。片側に水かきのあるパドルでこぐカナディアンと両端に水かきのついたパドルでこぐカヤックがある。スラロームはゲート番号順に通過しなければならず、ゲートに触れた場合は2秒、通過できない場合は50秒のペナルティーが科せられ、ゴールタイムに加算される。(共同)
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丸太をくりぬいたり,木や竹などの骨組に獣皮や樹皮をはりつけた舟。語源は,カリブ海のハイチ島の原住民の舟canoaに由来する。木から造られるカヌーは,形態的な特徴から四つの型に分けられる。最も単純な型は,1本の丸太をくりぬき船体とする丸木舟(くり舟)である。丸木舟は,日本では縄文時代から使用されており,ヨーロッパでも先史時代から全域にわたって用いられていた。現在それらの地域では,ほぼ板張り舟にとって代わられてしまったが,アフリカ,インド,東南アジア,ニューギニア,南アメリカなどでは,おもに河川交通や漁労に大きな位置を占めている。舟を安定させるため玄側に竹をつけたりするが,ミャンマーのメルギー諸島の漂海民モーケン族は,船幅の広い丸木舟を造って住居にしている。その製法は,大木から10m前後の船体をくりぬき,その中に水を入れて玄側を火で暖めながら船腹を広げ,横木をわたして固定する。2番目の型は,船体の片側にアウトリッガーoutriggerをつけたカヌーである。これはマダガスカル島からインド,マレー西海岸,インドネシアの一部を経てオセアニア全域に分布する。船体に平行して1本の浮き木がおかれる。これはカヌーの浮力を増すためでなく,バランスを保つためである。大型の帆走カヌーは,アウトリッガーを風上側において前進する。V字型で左右非対称形の船体,船首,船尾同形を特徴とするミクロネシア,中央カロリン諸島のカヌーは,今日でも800kmにおよぶ航海が可能である。3番目の型は,船体の両側にアウトリッガーのあるカヌーで,フィリピンとインドネシアに集中し,マダガスカル島やアフリカ東岸にも分布する。このカヌーは安定性に優れるが,方向転換などの操船や外洋での高い波に対して弱点があり,沿岸部や礁湖内の航行に限定される。4番目は,2そうの丸木舟を並べてつなぎ,甲板をつけた双胴船catamaran ship(カタマラン船)である。これは19世紀までポリネシアとメラネシアの一部で使用されていた。小型のものは外洋での漁労用や他島への航海用であるが,ポリネシアの全長20~30mのものは,戦艦や王の即位式のさいの御座船として使われた。この規模のカヌーになると20tの積載量があり,多くの人間や家畜のほか多量の食料運搬が可能で,古代ポリネシア人の民族移動に使われたと推定されている。大型のカヌーは1本の丸太だけで造ることは不可能で,船底部に玄側板や船首,船尾を接合して紐で固縛する縫合船の構造をもつ。とくにニュージーランドやソロモン諸島の戦闘用カヌー,モルッカ諸島のオレンバイ,台湾のヤミ族のチヌリクランなどは肋材を備えており,板張り船の構造に近い。中央カロリン諸島では今日でも,伝統的知識を修得した船大工の指揮のもとに,斧と手斧だけで10mものカヌーが建造されている。その諸工程には,カヌーのスピードと安定性を神に祈願する呪術的儀礼が伴っている。
執筆者:須藤 健一
カヌーをこぎ静水や急流で速さ,得点を競うスポーツ。canoeingと呼ばれる。カヌーは両端がとがっている小舟で,こぎ手は進む方向に向かい,櫂(かい)paddleを舟に固定しないでこぐ。これがボートrowingと異なる点である。競技用カヌーには2種類ある。(1)カヤックkayak(略号K) グリーンランドのエスキモー・カヤックに起源をもつ。舟はデッキで覆われ中央部に座席がありそこに腰をおろす。櫂は1本の柄の両端に水かきbladeのあるものを使い左右交互に水をかいて進む。かじrudderがあり足で操作する。(2)カナディアン・カヌーcanadian canoe(略号C) 北米インディアンのカバの木の皮で造ったカヌーから進化したもの。ほとんど覆いはない。こぎ手は立てひざをして1本の柄の片方に水かきのある櫂を使い舟の片側をかいて進む。かじはない。
スポーツとしてのカヌーは19世紀後半に始まった。1865年スコットランド生れのマグレガーJohn MacGregor(1825-92)がエスキモー・カヤックを改良して軽いカヤックを造り,ロブ・ロイrob royと名をつけヨーロッパや中東の川や湖を旅行した。これに興味をもったイギリスの若者が66年にカヌー・クラブをつくり,翌67年にはルールを決めて競技会を開いた。一方北米インディアンのカヌーはヨーロッパに渡って木製に変わり,カナディアン・カヌーと呼ばれてロブ・ロイとともに普及した。愛好者はこれらのカヌーで旅行したり,競技をしたりしてスポーツとしての形をつくった。ヨーロッパではカヌー協会を新設する国が相次ぎ,これらを統轄するため1924年に国際カヌー連盟(当時はスウェーデン語でInternationella Representantskapet för Kanotidrott,略称IRK)が創立された。その年パリで開かれたオリンピック大会にデモンストレーションとして参加,36年の第11回オリンピック・ベルリン大会から正式競技となった。国際連盟(IRK)は46年に改組,名称をInternational Canoe Federation(ICF)とし,本部はドイツからスウェーデンのストックホルムに移った。日本には昭和の初期,ドイツから折りたたみ式カヌーのファルトボートfaltboatが入ったが,本格的スポーツとしては第12回オリンピック東京大会(戦争で中止)でカヌー競技を行うことが決まってからである。そこでベルリン大会参加のボート役員が競技用カヌーを持ち帰り普及につとめた。37年東京の荒川で,東京市役所と専修大学が日本で初めてのレースを行った。38年日本カヌー協会が誕生,10月に日本学生選手権,11月には日本選手権を開いた。42年国際情勢の悪化で一度は日本漕艇協会と合併したが,60年ふたたび独立。その間51年に国際カヌー連盟に復帰,62年初の海外遠征を皮切りに国際交流も盛んになった。64年東京オリンピック・カヌー競技は神奈川県相模湖で行われた。66年日本体育協会の正式加盟団体となり,82年第37回島根国体から国体の正式競技となった。
カヌー競技にはレーシングracing,スラロームslalom,ワイルド・ウォーターwild water,セーリングsailingなどがある。(1)レーシング 静水でスピードを競う。種目は男子と女子のカヤック・シングル(略称K1),同ペア(K2),同フォア(K4),男子だけの種目のカナディアン・カヌー・シングル(略称C1),同ペア(C2)。舟の材質に規定はないが,大きさに規格があり,レースの前後に測定される。距離は500m,1000m,1万mで,1000mまでのレースは直線コース,各レーンは最小5mの幅(オリンピックなどは幅9m,9レーンのコースを使用),1万mは1000m以上のコースと半径50m以上の回航点のあるコースで行われる。レースは艇首をスタートラインにそろえ〈レディ・ゴー〉またはピストルの合図でスタートする。2度不正スタートすると失格,スタートから15m以内で櫂が破損した場合は再スタート。転覆は失格となる。K1による500m×4のリレーやカナディアン7人乗り(CX)のレースもあるが,近年は男子,女子のK1,K2による20~60kmのマラソンレースに人気が集まっている。レーシングの第1回世界選手権は38年スウェーデンで行われ,以後4年ごとに開かれ,日本は63年第6回大会から参加した。(2)スラローム 流速2m以上,岩など障害物のある800m以内のコースで行われる。このコースに15以上のゲートgate(長さ1.8m,緑白と赤白の2本のポールで示す)を設け,このうち2ヵ所以上にリバース・ゲート(略称Rゲート)がある。ゲートの幅は1.2~3.5m。選手はこぎ下り(緑白のポール),こぎ上がり(赤白のポール)を,ゲートに触れないように通過,Rゲートは後ろ向きに通過する。選手は危険防止のためヘルメット,救命具を付け,舟には救命用綱の着用が義務づけられる。舟の用材に制限はないが,大きさに規格がある。スラローム用カヤックにかじは付けられない。種目は男子K1,C1,C2,女子K1,混合C2。成績は所要時間(秒に換算)と罰点の合計点で少ないものが上位となる。罰点は1本または2本のポールに触れると2点,不通過は50点。競技は1人が2回試み,点の少ないほうをとる。個人と団体のレースがあり,団体は1チーム3人の合計点で争う。この競技ではカヌーが転覆しても選手が舟から離れないで,櫂の操作だけで起き上がるエスキモー・ロールを使用した場合失格にはならない。オリンピックには72年の第20回ミュンヘン大会に初登場。(3)ワイルド・ウォーター ホワイト・ウォーター・レースwhite water race,ラビット・ウォーター・レースrabbit water raceともいわれる。3km以上の急流に障害物のある難しいコースで行う。種目,方法はスラロームに同じ。所要時間で順位を決める。
カヌー競技はヨーロッパで盛んに行われ,とくにスウェーデン,デンマーク,ドイツは伝統がある。カヌー・スポーツの発祥地イギリスは,クラブ数では世界一だが,カヌー旅行が主。アメリカも近年競技に力を入れている。
執筆者:木下 栄徳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
舵(かじ)や竜骨などを用いない原始的な構造の小舟で、種々の形態のものが世界中に広く分布している。アフリカ、中南米、アジア、オセアニアを通じてもっとも広くみられるのが、木の幹をくりぬいた丸木舟(独木舟)(まるきぶね)タイプのものである。南太平洋の諸民族の間で独自の発展を遂げ、通常の独木舟やそれに波よけの外板をつけたもののほかに、独木舟の片側または両側に丸太のフロートをつけ安定性を向上させたアウト・リガー式のカヌー、二つの舟を梁(はり)でつないだり、甲板を渡して帆柱を立てたりしたダブル・カヌーなどがある。ニュージーランドのマオリやその他の島嶼(とうしょ)民の間では、長さ18メートルにも及ぶ戦闘用のカヌーもみられる。これらのカヌーには、しばしば優美な彫刻が施されていた。
北米先住民やエスキモーおよびイヌイットの間では、異なった構造のカヌーが高度な発展を遂げた。カヤックとよばれるカヌーは、軽い木または獣骨のフレーム全体にアザラシの皮を張ったもので、上部中央に人の乗る穴が残されている。女性の舟ともいわれるウミアックは、やや大形で、主として交易に用いられている。北米先住民の間で発達したカヌーは、軽くてじょうぶな木のフレームにカバの樹皮を張り、樹脂で防水を施したものである。構造上すべての部分が湾曲した弓状で弾力性に富んでいるうえ、流線形であるため、1人で軽々と運べる軽さでありながら、かなりの量の荷物を運搬できる強靭(きょうじん)さを備えている。
今日、スポーツ競技などでよく知られているカヌーには、エスキモーおよびイヌイットのカヤックから原型を借りたカヤックと、北米先住民のカヌーから原型を借りたカナディアン・カヌーがある。その材料には、木やプラスチック、軽金属、ガラス繊維など、種々の素材が用いられている。
[濱本 満]
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(吉田章 筑波大学教授 / 2007年)
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…そして300年ころからは,トンガを拠点としてポリネシア各地への大規模な民族移動が始まり,1000年ころまでに,北はハワイ諸島,南はニュージーランド,東はイースター島に至る広大な範囲に広がっていったのである。ポリネシアには,大型の竜骨をもつ板あわせカヌーや,このカヌーを2隻横に並べて接ぎあわせた大型のダブルカヌーなどがあり,遠洋航海に適したこれらの船が,ポリネシア人の移住に重要な役割を果たしていたことは想像にかたくない。そして彼らが優れた航海術を背景にして島々に急速に進出していったことにより,ポリネシア全域は,言語,神話,社会制度,物質文化などあらゆる方面にわたって驚くほどの均質性をもつに至ったのである。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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