日本大百科全書(ニッポニカ) 「河川交通」の意味・わかりやすい解説
河川交通
かせんこうつう
川を利用して行われる船による交通。沿岸や外海を利用する海運に対比して水運といい、外航船が通るには川幅70メートル以上、水深12メートル以上、川舟の場合でも水深2メートル以上が理想で、平野を流れる長い川ほど利用価値が大きい。河川用の小型貨物船を機帆船(発動機付き)または艀(はしけ)bargeとよんでいる。
鉄道や自動車が発達するまでは内陸地方の交通機関として重要な役割を果たしてきた。鉄道が発達してからは重要性が低下したとはいえ、ヨーロッパやアメリカにおいては、石炭、油、木材、食糧などのような、かならずしも急送を要しないで運賃の安いことを必要とする大量貨物が河川交通を利用している。ヨーロッパのライン、ドナウ、エルベ、ローヌ川などは運河でつながり、河川交通の代表例である。1925年に開通したボルガ・ドン運河はバルト海と黒海を連絡したもので、近年における河川交通の重要性を立証している。
日本においては、昔から琵琶(びわ)湖と淀(よど)川、江戸時代に入ってからは江戸を中心とし利根(とね)川、荒川などが河川交通路として重要な役割を果たした。たとえば、大坂の町のなかの上荷船・茶船、あるいは川越(埼玉県)を夜出発し、翌朝江戸に着く「川越夜舟」などは繁盛した。しかし、地形的な条件から、鉄道の発達とともに河川交通は全般的に衰退した。東京や大阪のような大都会にある問屋、中小の町工場などへ送り込まれる物資は、本船で大阪港、横浜港、東京港に着いて、ここで機帆船や艀に積み換え、河川を通じて搬入されるが、近年は自動車の発達により衰退してきた。
[大島藤太郎]