カプーア(読み)かぷーあ(英語表記)Anish Kapoor

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カプーア」の意味・わかりやすい解説

カプーア
かぷーあ
Anish Kapoor
(1954― )

イギリス彫刻家。インドボンベイ(現ムンバイ)に生まれる。実家はインド・ユダヤ系。1973~1977年ホーンセイ美術大学、1977~1978年チェルシー美術学校で学ぶなどロンドンで美術教育を受ける。1979年よりイギリス、ウルバーハンプトン専門学校で教職を得、教育活動のかたわら本格的に制作を開始する。1980年には、パリのパトリス・アレクサンドル画廊で初個展を開催。ほかにもリスン・ギャラリー(ロンドン)やバーバラ・グラッドストン・ギャラリー(ニューヨーク)などで多くの個展を開催している。1982年、リバプールでのアーティスト・イン・レジデンス活動を終えた後はロンドンを拠点に制作活動を展開。「ニュー・スカルプチャー」(1980年代に台頭した新しいタイプの彫刻。従来の約束事にとらわれない自由な表現に特色がある)の旗手として注目を集め、1990年のベネチアビエンナーレにイギリス館代表作家として参加、同展の2000年賞を受賞し、イギリスを代表する現代美術家として国際的にも注目される。

 カプーアの作品は、石灰岩砂岩の量塊を切り出して窪みをつけたものと、これに鮮やかな原色を吹きつけたもの(青の吹きつけの色彩は、「インターナショナル・クライン・ブルー」として名高いイブ・クラインの紺碧の青に似ている)の二つの系列に大別される。ミニマリズムの影響をうかがわせるシンプルな形態は、代表的な初期シリーズ「千の名前」(1979~80)より一貫したもので、そこはかとない宗教性や官能美を漂わせる。自作を「思想の器」と位置づけるカプーアにとって、彫刻の制作は「終わりと始まり」「自らの起源」という根底的なテーマを突き詰めるために欠かせないものであるが、このテーマは1979年のインドへの帰省を機に大きく膨らんだものであり、またドイツの美術家ヨーゼフ・ボイスからの影響も指摘される。

 1991年には、イギリス美術界にもっとも貢献した美術家に贈られるターナー賞を受賞した。1992(平成4)~1993年には、水戸芸術館の「アナザーワールド――異世界への旅」展で日本にも作品が紹介された。1998年にはロンドンやフランスのボルドーで大規模な個展が開催された。ファーレ立川(1994)や金沢21世紀美術館(2004)には作品が恒久設置されている。

[暮沢剛巳]

『「アナザーワールド――異世界への旅」(カタログ。1993・水戸芸術館)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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