倫理学的な思考実験の一つであるが、刑法学においても格好の素材とされる。古代ギリシアの哲学者カルネアデスが問題提起した事例に関連してこの名がつけられた。洋上で船が難破した際、漂流者が、1人しかつかまれない板を、他の漂流者から奪い取って生き延びた場合、この行為は正当といえるかどうかを、カルネアデスは問うた。この事例は、今日の刑法理論によれば、自分の生命を救うためにやむをえず他人の生命を犠牲にすることが許されるかという刑法第37条の緊急避難の限界を論じたものである。そのため、緊急避難の本質や限界を論ずる際に、この事例がしばしば引用される。
このような生命対生命の場合につき緊急避難が成立するかについては争いがある。すなわち、この場合を違法阻却事由として処理するか、違法ではあるが、期待可能性がないものとして責任阻却事由とするかという対立であるが、いずれによっても不可罰となる点では同じである。違法阻却の本質に関する社会相当説によって緊急避難を肯定する見解もあるが、法益衡量説(価値の低い法益を犠牲にして価値の高い法益を救う場合、その違法性は阻却されるという説。優越的利益説ともいう)によれば、生命という最高かつ特殊な法益については違法阻却にあたらないと解することになる。どの説をとるかによって、この種の行為に対して、被害者が正当防衛をなしうるかなどについて違いを生じる。
[名和鐵郎]
…国内法上のものと国際法上のものとがある。
[国内法]
古くはヘレニズム時代にカルネアデスが,船が難破したときに,1人しかつかまれない板にしがみついている人間を突き落として板を奪い,みずから助かることはゆるされるか,という形で問題を提出した(カルネアデスの板)。宗教や倫理の問題としてはともかく,法律の問題としては,切迫した危難のもとにおいて,他者に損害を与えて難を避けることを一定限度においては認めざるをえないというのが,少なくとも現代の多くの国のとっている態度である。…
※「カルネアデスの板」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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