民事上の不法行為、または刑事上の犯罪によって生命、身体、自由、名誉、財産等の利益を侵害された者ないし侵害の脅威を受けた者。通常、後者の刑事上の被害者は「犯罪被害者」として前者と区別される。また、さらに広義では戦争、災害、事故などで害を受けた者もさす場合があるが、通常は犯罪被害者をいう場合が多い。また近年の環境犯罪学などの未然予防の領域では、まだ被害にあっていない者を潜在的被害者として研究対象にしている。一般に犯罪発生には被害者が伴うが、ときには「被害者なき犯罪victimless crime」というテーマで論じられることもあり、売春、薬物濫用、賭博(とばく)、同性愛などの例では被害者は存在しないとされた。この議論は、被害者がいない行為は処罰すべきではないとする非犯罪化の議論であるが、近年社会的に認知された同性愛は別として、これらの行為は多くの国で処罰されており、その場合、被害者は国家ないし社会一般とみなされている。
歴史的にみると、犯罪被害者の地位は「タリオの法」(同害報復の原則)などによって加害者やその家族、部族への復讐(ふくしゅう)(血讐)が正式に承認され、また裁判においても私訴が認められていたが、社会が近代化するにつれて被害者の復讐が否定され、近代国家が誕生し国家刑罰権が確立すると、犯罪はすべて国家の秩序に反する行為とみなされるようになり、被害者の地位は急激に低下し、刑事手続では単に参考人や証人、目撃者などの形で捜査や裁判に関与するにすぎなかった。しかし、1960年代以降、世界的に被害者の法的地位が上昇し、ニュージーランドで始まった犯罪被害者補償制度を皮切りに、各種の救済・保護、権利保障などの対象にまで高められた。さらに、海外の一部では裁判にかわるカンファレンスという形式で加害者と話し合う修復的司法(リストラティブ・ジャスティスrestorative justice)制度が導入されている。
犯罪学においても、被害者をめぐる議論は長く中心テーマではなかったが、第二次世界大戦の前後から被害者に焦点をあてる被害者学、1970年代から潜在的被害者に焦点をあてる環境犯罪学の展開、さらには社会的に泣き寝入りした被害者を対象とする暗数調査などが行われるようになるにつれて、被害者の存在が脚光を浴びるようになった。今日では、そもそも被害者を生み出さない犯罪予防対策が重視されるようになっている。
[守山 正 2018年5月21日]
不法行為または犯罪により権利やその他の利益の侵害または脅威を受けた者。加害者の対概念。民事司法上は損害賠償請求権等を有し,原告等として積極的な役割を果たすが,刑事司法上は司法警察官に被害事実を申告する被害届を提出したり,捜査機関である検察官・司法警察官に犯人の訴追を求める告訴権を有したりするものの,裁判上の当事者として積極的役割を果たすものではない。ただし,親告罪に関しては,告訴が公訴提起の条件であるため,その限りの積極的機能を担う。刑事司法制度上のこのような役割のため,従前は犯罪被害者に光があてられることは少なかったが,戦後,犯罪発生に対する被害者の寄与が問題とされ,広義の犯罪原因論の一分野としての被害者学が成立し,現在では独立の分野として認知されるに至っている。この被害者学は,イスラエルの弁護士であるメンデルソーンBenjamin Mendelsohnや,アメリカ亡命中のドイツ人犯罪学者ヘンティヒHans von Hentigにより1950年前後に提唱されたもので,犯罪者の潜在的エネルギーが発現する誘因となるものとして被害者の態度をとらえ,その生物学的,心理学的,社会学的特性を一定の類型性において科学的に研究しようとするものである。資料収集や分析の方法,既存の刑法理論との結合の方法等,なお解決されるべき問題も多い。生命・身体を害する犯罪の被害者に関連して,その遺族等の救済のために,犯罪被害者等給付金支給法があるが,ここでも被害者が犯罪を誘発した場合を支給除外可能事由としている。
→被害者補償
執筆者:伊東 研祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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