精選版 日本国語大辞典 「緊急避難」の意味・読み・例文・類語
きんきゅう‐ひなん キンキフ‥【緊急避難】
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法律上、急迫の危難を避けるためやむをえず行う行為で、刑法、民法にそれぞれ規定が置かれている。
[西原春夫]
自己または他人(他人については、緊急救助の語も用いられる)の生命・身体・自由もしくは財産に対する現在の危難(緊急の危険状態)を避けるために、やむをえずになした行為(緊急避難行為)をいう。たとえそれが刑罰法規に該当しても「罰しない」(刑法37条1項)、つまり犯罪が成立しないから刑罰は科されないとされる。ただし、緊急避難行為から生じた害が、避けようとした害の程度を超えないことが必要。これを緊急避難の均衡性あるいは法益権衡の原則という。避難行為が必要以上になされた場合や、法益権衡の原則を破った場合を過剰避難といい、もはや緊急避難にはあたらないから犯罪となるが、情状によりその刑が軽減され、または免除される(刑法37条1項但書)。どのような場合に緊急避難として罰せられないかが問題となるが、その検討は、危難の面と、避難の面の二つの側面についてなされることが必要である。
(1)危難の面とは、自己または他人の生命・身体・自由もしくは財産に対する現在の危難があることである。名誉・貞操についても緊急避難(超法規的緊急避難という)を認めるべきであるという学説もある。現在の危難とは、法益(生命など法律の保障する利益)侵害の、差し迫った危険のある状態をさし、それが人間の行為によって引き起こされたものであろうと、自然現象または動物や物によって発生したものであろうと、原因が何であるかは問わない。
(2)避難の面とは、やむをえない避難行為であることをさす(ただし、法益権衡の原則を破るものであってはならないのは、いうまでもない)。やむをえずになした行為とは、それが自己または他人の法益を守るための唯一最良の方法である(他にとるべき方法がない)ことを意味する。刑法は正当防衛についても同じ用語を使っているが、緊急避難の場合にはより厳しく解釈されている。これを緊急避難の補充性という。
以上のような要件を満たした場合に、緊急避難が成立する。しかし、緊急避難として罰せられないということは刑法上の問題であって、後で述べるように民法上は賠償責任が依然として認められている。なお、緊急避難は、業務上特別の義務のある者、たとえば警察官・消防官・医師などには、これをなすことは許されていない(刑法37条2項)。
このような緊急避難は、正当防衛よりも遅れて発達した観念である。ローマ法、ドイツ寺院法(ただし「必要は法律をもたない」という原則を認めていた)、カロリナ刑事法典(カロリナ法典ともいう。1532年制定)などは、若干の犯罪の場合に緊急避難を不可罰とする規定を設けていたにすぎなかった。1810年のフランス刑法も、わずかに心理強制の場合に限ってこれを不可罰としており、同法を手本とした1880年(明治13)の日本の旧刑法も、これをやや拡大したにとどまった。現在のように広い範囲にわたって緊急避難が認められるようになったのは、1871年のドイツ刑法以来のことであり、日本では、同法を模範とした現行刑法以降のことである。
[西原春夫]
民法上は、とくに他人の物から生じた急迫の危難を避けるために、やむをえずその物を毀損(きそん)した場合には、不法行為による賠償責任を免れる(民法720条2項)。たとえば、他人の犬に襲われたので、やむをえずこれを傷つけた場合などがこれにあたる。一定の条件の下に違法性が阻却され、不法行為とならない。
刑法の場合と比べると、(1)危難が他人の物によって生じたものであることが必要とされる点と、(2)責任を免れるのは、危難を生じさせた物そのものを毀損した場合に限る点(前述の例でいえば、犬を避けるために垣根を壊した場合を含まない)で異なる。正当防衛と同じく、ほかに方法がなかったということ、守った利益と物の毀損による損害との間に大きな不均衡がないことが免責の要件である。
[淡路剛久]
国際法では緊急権ともよばれる。他国の不法な行為に基づかない事態によって急迫または現実の危害があり、他の手段をもってそれを避けることができない場合に、やむをえず行う防衛行為をいう。広義では、自衛権の観念に含まれるが、狭義の自衛権が他国の不法な侵害に対するものであるのに反し、緊急避難の場合は、他国の不法なものでない点で区別される。緊急避難が成立すると、防衛行為の違法性は阻却され、国際法上適法な行為となる。ただし、緊急避難によって生じた損害に対しては、当然に補償しなければならない。この権利を国際法上認めるかどうかについては争いがあるが、多数説はこれを認めている。
緊急避難の例としては、ナポレオン戦争中に発生した1807年のデンマーク艦隊引渡し事件と、第二次世界大戦中のオラン港事件があげられる。前者は、ナポレオンがイギリスに侵入するため、デンマーク艦隊を利用しようとしたのに対し、それを知ったイギリスは先手を打ち、デンマークに対し艦隊を戦争終了時までイギリスに預けることを要求したが、デンマークがこれを拒絶したため、イギリスは強力な艦隊を派遣してデンマーク艦隊を拿捕(だほ)した事件である。後者のオラン港事件は、1940年、第二次世界大戦でドイツに屈伏し、アルジェリアのオラン港に退避しているフランス艦隊に対し、イギリスは降伏あるいは武装解除を要求し、これを拒否したフランス艦隊を攻撃し壊滅せしめた事件である。
[池田文雄]
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