日本大百科全書(ニッポニカ) 「カレンシー・ボード制」の意味・わかりやすい解説
カレンシー・ボード制
かれんしーぼーどせい
currency board arrangement
自国通貨を外貨とほぼ固定(peg)した為替(かわせ)レートで交換する固定為替相場制(fixed exchange rate system)の一種。比較的経済力が弱い国や地域が、自国の経済や通貨を安定化させる目的で導入しているケースが多い。アメリカ・ドルやユーロなどの基軸通貨に固定させることで、自国通貨の信認を高められるため、多くの国が採用していた時期もある。しかし2002年のアルゼンチン経済危機で、自由に金融政策を運営できないなど制度の欠点があらわになり、現在では、アメリカ・ドルに固定したカレンシー・ボード制を採用する香港などに限られている。
カレンシー・ボード制は、自国内の通貨供給量を外貨準備高以下に抑えることで、自国通貨が基軸外貨とほぼ一定のレートで交換できるように担保する。このため金融政策が制限を受けるが、為替相場の変動を避け、インフレーションに強い特性をもつ。法律で制度維持を規定するのが一般的で、一度導入すると容易に変更できず、政治介入も受けにくいため、信用度の高い固定為替相場制度とされてきた。一方、市場実勢でレートが上下する変動為替相場制(floating exchange rate system)は固定為替相場制と違って、絶えず為替相場の上下にさらされるが、金融政策を機動的に運営できる利点がある。
1990年代から2000年代初めにかけて、「国際資本移動が活発なグローバル経済下では、新興経済国にとっては、カレンシー・ボード制のような固定為替相場制か、変動為替相場制のいずれかが維持可能な為替制度で、その中間的な制度は不安定である」との二極分化論が国際通貨基金(IMF)やアメリカ財務省などから盛んに提唱された。だが、通貨・経済危機にみまわれた東アジア諸国やアルゼンチンでは、自国通貨が過度にアメリカ・ドルに依存していたうえ、金融政策を機動的に運用できないこともあって、カレンシー・ボード制が崩壊した。
現在では、アメリカ・ドル、ユーロ、円などの基軸外貨を籠(かご)(バスケット)に入れるように選び、一定の式でレートを算出する通貨バスケット制など、固定為替相場制と変動為替相場制の中間に位置する管理フロート制が望ましいとの主張が主流である。
[矢野 武]