翻訳|country risk
主として海外投融資や貿易取引に付随するリスクをいうが,その意味内容としては,事業計画の妥当性にかかわるリスク(プロジェクト・リスク),取引相手先の信頼性にかかわるリスク(プライベート・リスク),為替リスクなどに該当しない取引相手国にかかわるリスクの総称として使われている。また,カントリー・リスクは,取引相手先の所属する国の外貨資金繰り悪化から対外債務履行が不可能になるリスク(ソブリン・リスクsovereign risk),投融資相手国政府の政策変更による国有化のリスク,そして相手国における革命,内乱,戦争など非常事態の発生によって通常の企業経営や貿易取引が困難となる非常危険リスクの三つに分類できる。
カントリー・リスクは相手国全体の状況変化から生ずるリスクであるが,相当に異質なリスクの集合概念である。海外投融資,貿易取引との関連でいえば,ソブリン・リスクは延払いを含めた海外投融資や貿易取引に関係の深いリスクであり,国有化のリスクは海外投資事業に特有のリスクである。非常危険リスクは,主として海外での投資事業,建設事業,貿易取引に関連するリスクであるが,その他の海外取引に伴う債権の保全全般に関係するところも大きい。これら3種類のカントリー・リスクは同時に生ずることもあるが,一つあるいは二つのリスクとして発生する場合のほうが多い。1981年から82年にかけて多くの東欧諸国と中南米諸国で問題とされたのは対外債務返済難つまりソブリン・リスクであった(なお対外債務不履行のことをデフォルトdefortという)。これに対して,スカルノ時代のインドネシア,アジェンデ時代のチリ等では国有化リスクが最大の焦点となったし,イラン・イラク戦争時の両国国境周辺等では非常危険リスクが現実化した(三井グループによる日本イラン石油化学工業プロジェクト,いわゆるイラン石化計画等)。
言葉の沿革からいえば,ソブリン・リスクというのはきわめて古い語源をもつ。国家統治の主体が王制であったときに,政府に金を貸してよいかどうかの基準は文字どおり宮廷・君主(ソブリン)に対する信頼性であった。日本の例でいえば,江戸期の大名貸にかかわるリスクがこのソブリン・リスクに見合う概念である。これに対してカントリー・リスクの用語が一般化したのは比較的新しく,第2次大戦後に植民地が多数独立した際にそれら新興国でナショナリズムの火が燃え上がり,先進国の外資が続々と接収され,あるいは独立戦争に伴う非常危険で被害を受けるようになってからである。厳密な区分ではないが,今日でも欧米では金融界がソブリン・リスクの表現を多く使い,カントリー・リスクの用語は企業の海外投資事業に関して使われる場合が多い。しかし日本では,大名貸が死語となったためもあり,カントリー・リスクの用語が国家次元のリスク要因すべてを総称する意味で使われるようになった。
カントリー・リスクは予測が難しいために,先進国では輸出の円滑化や自国資本の保護のためにカントリー・リスクに対し国家的保障(オフィシャル・サポート)を設けている。日本では,プラントを中心にした輸出金融に対しては輸出保険制度や日本輸出入銀行(輸銀)融資制度があり,海外投資に対しては海外投資保険制度や輸銀投資金融制度がある。カントリー・リスクの発生する範囲も政治,経済,社会,金融,外交などきわめて広いため,その情報源として単純で利用可能なルートはありえない。海外融資あるいは海外投資にかかわるカントリー・リスクの視点から国を格付けした資料は日本でも海外でも出版されているが,カントリー・リスクの予測は歴史理解を含めた相手国に対する深い百科全書的素養の上に立った各種情報の総合判断能力により初めて可能となる。
執筆者:西村 厚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
外国へ直接投資や貸付を行う場合に、その債務返済等をめぐって融資対象国自体によって引き起こされる危険性をいう。当該国の信用度をも表し、リスク度の高い国ほど金利・融資条件が厳しくなる。カントリー・リスクの度合いは、国際収支、外貨準備高、対外債務残高などの経済的要素を基礎に、政治の安定性や国の規模などを総合して判断される。世界銀行では、デット・サービス比率debt service ratio(年間の対外債務元利支払額を年間輸出額で割った比率)が20%を超える国を要注意としていたが、最近では政治や社会・宗教問題などの変動が大きな要因となり、それらが経済的要因と密接に関連しているため、そのリスク評価がむずかしくなっている。
なお、類語として「地政学リスク」がある。中東情勢のように地理的条件により国際関係に不安定な影響を及ぼし、地域紛争やテロなど政治的・軍事的な緊張をもたらすリスクをいう。原油価格や株式相場、為替(かわせ)相場などの経済的変動を引き起こし、国際経済や企業活動に影響を与える不安定要因となる。
[秋山憲治]
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