ガーナー(Alan Garner)(読み)がーなー(英語表記)Alan Garner

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ガーナー(Alan Garner)
がーなー
Alan Garner
(1934― )

イギリスの児童文学作家。オルダリー・エッジ小学校、マンチェスター・グラマー・スクールを経て、オックスフォード大学モードリン・カレッジに学んだ。イングランドウェールズ境界に近い故郷チェシャーと、その土地にまつわる伝説昔話に強い愛着をもち続ける。本格的なファンタジーが復活し始めた1960年代初頭に、生地を物語の舞台にして、現代に生きる姉弟が、妖精(ようせい)、小人魔法使いなどの善悪の戦いに巻き込まれる波瀾(はらん)に富む物語『ブリジンガメンの魔法の宝石』(1960)と『ゴムラスの月』(1963)を発表して好評を博す。さらに、マンチェスターと、異世界であるエリダーの間を行き来する少年たちの物語『エリダー』(1965)でファンタジー作家の地位を確立した。この3冊は現在も、子供ばかりでなく多くのファンタジー愛好家たちに愛読されている。しかし、彼の名を世界的にしたのは『ふくろう模様の皿』(1967。カーネギー賞、ガーディアン賞受賞)である。ウェールズの神話・古伝説の本『マビノギオン』の一つの話を下敷きに、古代から続く2人の若者と1人の娘の愛のもつれを描き、悲劇の源である誤解と現代における愛の可能性を追求した。彼は、極端に省略した詩的な文体によって、多くの新しい作家たちに影響を与えたが、凝縮度の高いその文体は、子供たちには難解で、子供の文学の境界について議論を巻き起こした。これに続く『レッド・シフト』(1973)は、古代、17世紀、現代の若者の愛のかたちを扱い、人間において不変なものを模索したが、内容の複雑さと、極端な省略による極端な筋の飛躍などが、子供を遠ざけた。

 彼がふたたび注目を浴びたのは、『石の本』(1976)、『おじいちゃんが死んだ日』『おばあちゃん子』(ともに1977)、『狙撃手のくぐる門』(1978)である。この四部作は、血縁関係にあるチェシャーの職人たち――石工や鍛冶(かじ)屋の生活を5世代にわたって物語にしたもので、簡潔ながら豊かなイメージを生む美しい文体を通じて、イングランドの職人気質が浮き彫りされ、生きる意味を強く暗示している。

 職人の家に生まれて、一家ではじめて高い教育を受けたため、生まれた土地から切り離されたという意識を強くもっているガーナーの、故郷回帰が四部作のモチーフともいわれるが、土地が生み出した伝説や昔話も背後にあると思われる。彼は昔話をもとに、自由に話をつくって『黄金の童話』(1980)と『おかしな話を一袋』(1986)を発表し、格調高い文体と話のわかりやすさと面白さを賞賛された。

[神宮輝夫]

『久納泰之訳『ゴムラスの月』(1976・評論社)』『神宮輝夫訳『ふくろう模様の皿』(1978・評論社)』『龍口直太郎訳『エリダー――黄金の国』(1981・評論社)』『芦川長三郎訳『ブリジンガメンの魔法の宝石』(1981・評論社)』『猪熊葉子ほか著『イギリス児童文学の作家たち』(1975・研究社)』『デヴィッド・リーズ著、白坂麻衣子訳『物語る人びと』(1997・偕成社)』『早川敦子・神宮輝夫監修『歴史との対話――十人の声』(2002・近代文芸社)』

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