キクイムシ(読み)きくいむし(その他表記)bark beetles

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キクイムシ」の意味・わかりやすい解説

キクイムシ(昆虫)
きくいむし / 木食虫
木蠹虫
bark beetles

昆虫綱甲虫目キクイムシ科Scolytidae(Ipidae)の昆虫の総称全世界に約7000種が分布し、日本からは約300種が知られる。植物のほとんどの部分につくが、主として伐倒木、衰弱木、枯れ木の樹皮下や材を食害し、森林のみならず果樹園、庭園の重要害虫を含む。体長は0.8~11ミリメートル、多くは3ミリメートル前後。体は円筒形、強固で赤褐色ないし黒色。頭は小さく、前胸の下に隠れて上部から見えないか、わずかに露出する。触角の先端は球桿(きゅうかん)状に広がる。脚(あし)は短く、脛節(けいせつ)は扁平(へんぺい)で外縁に歯状突起があり、その先端に鉤(かぎ)状突起をもち、跗節(ふせつ)は5節で第4節は微小。ゾウムシ科に近縁で、その亜科として扱う学者もあるが、一般にキクイムシ科は口吻(こうふん)が短い。

 大部分の種は、生態面から樹皮下キクイムシとアンブロシアキクイムシとに分けられる。前者は、親虫が樹皮下の靭皮(じんぴ)部に沿ってあけた孔道(こうどう)(母孔)に産卵し、幼虫は母孔から直角に靭皮部を食べ進み、先端で蛹化(ようか)して成虫になると個々に脱出孔を外にあける。これらは衰弱木だけでなく、生息数が増加するとヤツバキクイムシのように生立木も加害する。後者は生丸太の害虫として知られ、材中深くにあけた孔道の中にアンブロシア菌と俗称される不完全菌類を繁殖させる。幼虫はこの菌を食べて育ち、成虫になると親虫の潜入した孔(あな)から脱出する。この孔道はピンホールとよばれ、材価を著しく低下させる。この類の雌雄の割合は、種によって一雄一雌性、一雄数雌性、一雄多雌性があり、巣(食痕(しょっこん))の形も一定している。クリノミキクイムシはクリの実やイチゴの茎に巣をつくる。また、俗に松くい虫とよばれるマツの害虫であるマツノキクイムシ、マツノコキクイムシ、キイロコキクイムシなどもこの類である。なかでもコキクイムシ類は小枝の髄に入って加害する。

 キクイムシ類と俗称される場合、広葉樹の枯死木や丸太に加害するナガキクイムシ科Platypodidaeも含まれる。この類は体が細長く、頭は幅広く、脚の跗節が長い。これらは、すべての種類が材中にピンホールをつくり、アンブロシア菌を繁殖させて生育する害虫で、日本からは18種が知られている。

 なお、キクイムシとよばれる昆虫にはラワン材の家具に孔をあけて大害を与えるヒラタキクイムシ科Lyctidaeなども含まれる。

[野淵 輝]



キクイムシ(海産動物)
きくいむし / 木食虫
gribble
[学] Limnoria lignorum

節足動物門甲殻綱等脚(とうきゃく)目キクイムシ科に属する海産動物。海中木材に食い入る世界共通の有害動物で、杭(くい)、桟橋、船底などにハチの巣のように無数の孔道をあけ、ついには海綿状になって被害は中心部に及ぶ。孔道は断面が円形で、やや斜めに掘られたあとに表面に対して平行になる。孔道は分岐せず、ある間隔で材の表面に向く呼吸孔がある。体長3ミリメートルほどの小形種で、半円筒形である。強大な大あごで木材を食害する。球状の頭部に続いて7胸節、5腹節、腹尾節よりなる。近縁のアンドリュウスキクイムシL. andorewsiも太平洋岸に分布し、やはり海中の木材を食害して穿孔(せんこう)する。

[武田正倫]

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改訂新版 世界大百科事典 「キクイムシ」の意味・わかりやすい解説

キクイムシ (木喰虫)
bark beetle

甲虫目キクイムシ科Scolytidaeに属する昆虫の総称。世界から約7000種,日本から約300種が知られるが,成虫,幼虫とも植物体に穿孔(せんこう)するため著名な害虫が少なくない。成虫の体は一般に黒色や褐色の円筒形で,体長1~5mmの微小な種が多い。触角は先が卵形(球稈(きゆうかん))となる。幼虫は白色円筒形で胸脚や尾突起を欠き,ゾウムシ科の幼虫に似る。キクイムシ科は種類によってそれぞれ特定の寄生する植物があり,しかも成虫(母虫ともいう)と幼虫が樹皮下や材中につくる食痕(母虫孔と幼虫孔)が種類によって一定の形をしていることから,食痕によって種類が判定できる。キクイムシ科はその生活様式から樹皮下穿孔虫と養菌性穿孔虫に大別できる。前者は樹木を食することで栄養をとるが,後者は母虫が孔道をつくり,その中にアンブロシア菌と呼ばれる菌を繁殖させ,幼虫はこの菌を栄養とする。キクイムシの種類によってアンブロシア菌の種類も異なる。これらの菌は母虫の体の一部に付着したり,消化管によって運ばれるが,胞子を蓄える袋をもつ種類も知られている。このため,これらのキクイムシ類を英名ではambrosia beetleと呼ぶ。キクイムシ科は一般に衰弱した木から出される化学物質によって飛来し木にもぐりこむ。健全な木はこのような誘引物質をださないので攻撃されない。かつてはマツ類の樹皮下を加害するカミキリムシ類,ゾウムシ類,キクイムシ類などを総称してマツクイムシと呼んだが,これにはマツノキクイムシ,マツノムツバキクイムシ,ヤツバキクイムシなどのキクイムシを含んでいた。
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キクイムシ (木喰虫)
Limnoria lignorum

海中に自然に,あるいは人工的に置かれた木材に穿孔(せんこう),孔道を掘り,その中にすみ,食害し続ける体長3mm前後の小型甲殻類。等脚目キクイムシ科。体は半円筒形で黄白色,背面に小黒点が散在する。世界的な分布を示し,日本沿岸にもふつうである。キクイムシ科には多くの種類が知られているが,その多くは広い分布を示し,すべて海中に置かれた木材や海藻など植物性のものを食べている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キクイムシ」の意味・わかりやすい解説

キクイムシ
Scolytidae; bark beetle; Ambrosia beetle

鞘翅目キクイムシ科の昆虫の総称。微小ないし小型。体は堅固,円筒形で,植物組織内の生活に適応している。触角は普通 11~12節。頭部は前胸より幅狭く,前方が多少とも吻状に伸びているものが多い。前胸は大きく,多くは前方にせばまる。上翅には皺や点刻,縦条などがあり,後端は丸いもの,切断状のもの,溝状にへこむもの,とげのあるものなどさまざまである。肢は短く,脛節には普通歯があって木材を穿孔するのに適している。 跗節は5節。幼虫は小さく,腹面が内側に湾曲する。生活様式に2型あり,樹皮下穿孔虫と養菌性穿孔虫に分けられる。前者は後者より原始的で,親虫は樹皮下形成層に母孔と呼ばれる孔道を掘り,その両側に産卵する。孵化した幼虫は母孔と直角に形成層を食い進んで成熟し,成虫になるとそれぞれ脱出孔をつくって外に出る。成虫と幼虫のつくる食痕は種によって一定している。後者はアンブロシア甲虫と呼ばれ,母虫が木部まで穿孔し,孔道の周囲にアンブロシア菌を植付ける。幼虫はこの菌を食べて育ち,成虫になると母虫の侵入した孔から脱出する。この甲虫のつくった孔道は黒変しているのが特徴である。同一種が多くの樹種につく場合が多く,森林害虫として有名な種が少くない。世界に 2000種以上が知られる。日本産は 270種以上。

キクイムシ
Limnoria lignorum; gribble

軟甲綱等脚目キクイムシ科 Limnoriidaeの節足動物。体長 3mm。頭部,第1~7胸節に続く腹部は体長の 3分の1。体は円筒形,黄白色で,背面に不規則な黒色模様がある。腹尾節は円盤状である。海中の木材に穿孔し,しだいに中心部へと侵入する。木造船や海中工事用の木材に大害を与え,これを防ぐには金属板を張るほかない。世界共通種。キクイムシ科にはキクイムシのほかにアンドリュウスキクイムシ L. andrewsi があり,太平洋岸各地に広く分布し,海中の木材を食害する。(→甲殻類等脚類軟甲類

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百科事典マイペディア 「キクイムシ」の意味・わかりやすい解説

キクイムシ(昆虫)【キクイムシ】

キクイムシ科とナガキクイムシ科などに属する甲虫の通称。多くの種類があるが,3mm内外の小型種が多い。黄褐色または黒褐色。幼虫,成虫とも各種樹木の皮下や材部に穴をあけ,普通は衰弱した木を枯死させるが,大発生すると生木にも加害し森林害虫となる。俗にマツクイムシといわれるマツノスジキクイムシやマツノキクイムシなどが著名。

キクイムシ(甲殻)【キクイムシ】

等脚目キクイムシ科の小型甲殻類。体長3mm,幅0.8mmくらい。体は半円筒,頭は丸い。黄白色で背面に暗色の小斑紋をもつ。海中の木材に穴をあけその中にすみ,湾岸施設や木造船などに被害を与える。全世界に分布し,日本沿岸にも普通にみられる。

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