ギリシア文字(読み)ギリシアもじ

精選版 日本国語大辞典 「ギリシア文字」の意味・読み・例文・類語

ギリシア‐もじ【ギリシア文字】

  1. 〘 名詞 〙 ギリシア語を書き表わすのに用いられる表音文字。セム系の文字であるフェニキア文字を、紀元前一〇世紀から前九世紀頃ギリシア人が借用してつくりあげたもので、ローマ字ロシア文字の基となった。ふつうは二四字。紀元後数世紀まではすべて大文字で書かれ、小文字は中世に大文字から発達してできた。
  2. Αα…アルファ Ββ…ベータ Γγ…ガンマ Δδ…デルタ Εε…エプシロン Ζζ…ゼータ Ηη…エータ Θθ…テータ Ιι…イオタ Κκ…カッパ Λλ…ラムダ Μμ…ミュー Νν…ニュー Ξξ…クシー Οο…オミクロン Ππ…パイ Ρρ…ロー Σσ,ς…シグマ Ττ…タウ Υυ…ユプシロン Φφ…ファイ Χχ…キー Ψψ…プシー Ωω…オメガ

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改訂新版 世界大百科事典 「ギリシア文字」の意味・わかりやすい解説

ギリシア文字 (ギリシアもじ)

古代ギリシア人がフェニキア文字をもとにつくったアルファベット。ギリシアには第2次世界大戦後に解読されたミュケナイ文書に用いられている線文字Bと,それと同系と思われる文字が歴史時代のキプロス島に残されているが,これらは仮名(かな)と同じ音節文字である。この系統の文字に代わって広く使用され,のちのラテン・アルファベット(ラテン文字)のもとにもなった文字が,ギリシア文字である。

 歴史家ヘロドトスによれば,ギリシア人はこの文字をセム系の言語を話すフェニキア人から借用し,これに改良を加えて彼らの言語の表記に適切な文字をつくり上げたという。その借用はおそらく前9世紀ごろ,フェニキアの商人を通じて行われたものであろう。それは小アジア世界に広く流布していた楔形(くさびがた)文字のように音節文字ではなくて,1字が単独の子音のみを表す22の表音文字であった。セム系の言語では,一つの形,語根において意味を担うのは子音だけで,a,i,uの3母音は文法的な変化を表すにすぎず,母音は補助的なものであった。ところがギリシア語ではēōs,aiōnのように,ほとんど母音だけからなる語があり,単独の母音の表記が不可欠である。そこでセム語に特有の音だがギリシア語には不必要な喉音(こうおん)で,アルファベットの最初の音,'ālef(=alpha)と13番目の`ayinを,ギリシア人は彼らの母音aとoの表記に転用した。また半母音を表すyōdh(=iota)をiにあてたが,もう一つのwāw()はw()とu()の二つに分けられ,w()はFとして6番目に,u()はTのあとの最後に加えられた。またeにはhを表すhē’(,のちの形に)をあて,ギリシア語に必要な5母音の表記に成功した。またギリシア語に固有の子音である帯気音ph,th,khについては,thにはΘがあったが,ph,khには独立の文字がなくΠ(p),K,Q(k)にHを組み合わせて表記し,thにもΘHが用いられたこともある。しかしのちにはphにΦ,khにΧという文字がくふうされた。そしてイオニアを中心とする小アジア,本土ではアルゴス,コリントス,メガラ,アカイアなどでは,これにさらにΨ(ps)が加えられ,フェニキア文字のsāmekの転用であるΞ(ks)と並んで使用された。これが東ギリシア型と呼ばれるアルファベットで,若干の修正を加えてのちにアッティカ中心の古典ギリシア語の標準文字体系となる。ところが上記の型を採用しなかった本土の地域と,それにエウボイアでは,Χ(kh)の字をksに,Ψ(ps)をkhにあてている。これが西ギリシア型と呼ばれるもので,のちにエトルリア語ラテン語の表記にも用いられている。アッティカでは,古くはΧ(kh)は東型だが,psとksにはΨ,ΞではなくてΦΣ,ΧΣという合成文字が使われた。

 古代には大文字活字体のみで,小文字は中世以後に筆写などのためにくふうされた。またこれを書く方向は,古くはセム文字と同じく右から左であったが,ときにはブストロフェドンboustrophedon(牛耕式)と呼ばれる左右交互の往復の書き方が用いられている。そして古典期になって左から右という方向が固定し,それに伴って字体も変化し向きが一定した。

 なお,字形の変遷については〈アルファベット〉の項目でも具体的な字形を示し解説しているので,あわせて参照されたい。
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百科事典マイペディア 「ギリシア文字」の意味・わかりやすい解説

ギリシア文字【ギリシアもじ】

前10世紀から前9世紀ごろにギリシア人がフェニキア文字を借り,ギリシア語を表記するために必要な工夫を加えて成立した単音文字。東西2系統があったが,アテナイが前403年に東系の24文字を採用し,一般化した。古くはすべて大文字で書かれ,小文字,アクセント符号,分かち書きは後代に発達したもの。のち,ラテン文字(ローマ字)やロシア文字(キリル文字)が,ギリシア文字から発達した。
→関連項目アルファベットエトルリア語フリュギア語文字ロゼッタ・ストーン

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギリシア文字」の意味・わかりやすい解説

ギリシア文字
ぎりしあもじ

ギリシア文字は、おそらく紀元前9世紀のころ、ギリシア人がセム系のフェニキア文字を借用し、これに独自の改変を加えてできあがった。個々の文字の名称と配列はフェニキア文字のそれとほぼ同じであるが、セム文字にはなかった母音文字を備え、1字1音による厳密に音素的な表音原理を確立した点で、この文字体系は文字史上に画期的な意味をもっている。

 古い時期のギリシア文字は、地域によっていろいろな変種があったが、大別すると、小アジアのイオニアを中心に発達した「東ギリシア型」と、主としてギリシア本土で行われた「西ギリシア型」の二つに分かれる。前4世紀以降ギリシアの標準アルファベットとして普及したのは前者の型で、これは24字からなる。古くは大文字だけで、小文字は中世の草書体から発達した。

 一方、イタリアに移入されてラテン文字の基になったのは西ギリシア型のアルファベットで、その違いが現在のギリシア文字とラテン文字の違いに反映している。このラテン文字は近代の西欧諸言語に継承されて、世界でもっとも有力な文字体系となったが、ギリシア文字から直接派生した文字体系としては、古くはゴート文字、アルメニア文字、そして9世紀ごろスラブ語の表記のためにつくられたキリル文字などがある。

[松本克己]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ギリシア文字」の意味・わかりやすい解説

ギリシア文字
ギリシアもじ
Greek alphabet

古代ギリシア人がフェニキア文字を借用してつくった文字。前 1000年頃にできあがったものとみられており,初めは東ギリシア文字 (イオニア文字) と西ギリシア文字 (カルキディア文字) とで多少の差があったが,前4世紀にイオニア文字に統一された。イオニアのアルファベットは,24の文字から成る。ギリシア文字のフェニキア文字と異なる大きな特徴は,母音を表わす文字があることである。なお,現在は,現代ギリシア語を書くのに用いられている。

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世界大百科事典(旧版)内のギリシア文字の言及

【アルファベット】より

…広義には,起源・原理のいかんにかかわらず,伝統的な一定の配列順序をもった文字体系を指すが,ここでは通常ラテン文字と呼ばれ,現在ほとんど全世界で最も広く用いられている文字体系について述べる。アルファベットという名称は,ギリシア文字の最初の2文字の名を結合したものであるが,この文字体系はギリシア人の発明したものではない。古代ギリシア人自身この文字のことを〈フェニキアの文字〉と呼んでいたこと,〈フェニキア文字〉がギリシア文字――とくに初期のそれ――と非常によく似た字形,名称,配列をもつこと,各文字の名称が後者からは説明できないのに前者からは説明できること,などの事実から,ギリシア人が当時の海洋民族たるフェニキア人からこの文字体系を学んだものであることは,確定的である。…

【文字】より

…さらに,字体のちがいをこえて同じ字であると認められる場合がある。ギリシア文字の(シグマ)は語末以外ではσという字体が用いられる。なお,草書,行書,楷書とか,ゴシック,イタリック,とかいうような文字体系の全体にわたる字体のちがいは〈書体〉といわれる。…

※「ギリシア文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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