スラブ語最古の文献の言語である古代教会スラブ語の文字として,グラゴール文字と共に使われた二つの文字の一つで,9世紀末には既に使用されていたと考えられている。ブルガリアではこの文字で書かれた9世紀末の碑文の断片が発見されているし,10世紀前半にはロシアでも使用されており,さらにこの文字で書かれたブルガリアのサムイル公の墓石(10世紀末)も見つかっている。しかし,これらの事実はスラブ語の文字を作ったといわれるキュリロスとメトディオス以前にキリル文字が文字の体系として存在していたことを示すものではない。この文字はギリシア語の大文字を主体に,さらにグラゴール文字その他の文字によりギリシア語にない音の表記のための文字が補われて成立したものと考えられている。文字の性質は原則的には1音1文字のアルファベットであるが,いくつかの文字は二つの音を一つの文字で表している。
10~11世紀を通じてこの文字はスラブ圏の東部にひろまり,18世紀にいたるまでにいくつかの字体の変化を経たほか,それぞれの事情により一定の改訂がなされて,今日のロシア語,ブルガリア語,マケドニア語,セルビア語などのスラブ語(スラブ語派)の文字となっている。この文字はさらに18世紀にはルーマニアでも使われたほか,今日ではモンゴル語や,旧ソ連邦内の多くの民族の文字の母体としてスラブ語以外でも使われている。キリル文字の名のキリルはスラブの使徒キュリロス(スラブ名キリル)にちなんでつけられたものと考えられているが,キュリロスが作った文字はキリル文字ではなくグラゴール文字であることは,今日学界の定説となっている。
→グラゴール文字 →ロシア文字
執筆者:千野 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代ブルガリア語(古代教会スラブ語)の表記に用いられた文字。紀元後9世紀、サロニカ(ギリシア)の伝道僧キリロス(別名コンスタンティノス)とメトディオスの兄弟が、ギリシア正教の布教のためにギリシア語の福音(ふくいん)書をこの言語に翻訳したが、その際キリロスがギリシア字母の大文字の形に基づいてつくったといわれる。すこし古い形としてギリシア字母の小文字に基づくグラゴル文字がある。キリル文字では、当時のギリシア字母の音価を反映して、たとえばBは[v]、И(ギリシア字母のHから)は[i]を表す。現在、ロシア語、ブルガリア語、セルビア語、マケドニア語などのスラブ諸語で用いられている。
[長嶋善郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…スラブ語最古の文献の言語である古代教会スラブ語の文字としてキリル文字と共に使われた二つの文字の一つ。スラブの使徒といわれるキュリロス(スラブ名キリル)によって860年代に作られたといわれる。…
…大半の言語は(1)もしくは(3)の型に入り,(2)の例は珍しい。
[複合言語国家]
例えば,旧ユーゴスラビアは言語的に複雑で,セルビア・クロアチア語,スロベニア語,マケドニア語が公用語としてそれぞれ用いられ,しかもスロベニア語とセルビア語はラテン文字で,クロアチア語とマケドニア語はキリル文字で表記されてきた。ほかにハンガリー語,トルコ語,スロバキア語,ブルガリア語,ルーマニア語が一部で話されている。…
…ロシア語で用いる文字体系の通称で,現行のアルファベットは母音字母10,子音字母21,記号字母2の合計33字母から成る(表参照)。起源的には9世紀末ブルガリアで成立したキリル文字にさかのぼる。10世紀末キリスト教(正教)の受容とともにキエフ公国に入ったキリル文字は日用の文字体系として定着普及し,16世紀後半には金属活字による印刷もはじまったが,18世紀初頭近代化をめざすピョートル1世は,教会図書をのぞく一般書印刷の促進のために,1音1字の原則で字母数を整理するとともに,新しい字体を選んで〈民間活字〉33字母を制定した。…
※「キリル文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新