日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラム」の意味・わかりやすい解説
クラム
くらむ
Donald James Cram
(1919―2001)
アメリカの化学者。バーモント州チェスターに生まれる。フロリダ州のロリンズ大学で化学と哲学を学んだのち、1942年ネブラスカ大学で修士号を取得した。第二次世界大戦中は製薬会社のメルク社に勤務したが、1945年ハーバード大学に進み、1947年同大で博士号を取得した。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で教職につき、1948年助教授、1957年教授に昇格し、1990年まで務めた。
クラムは有機金属化合物について研究し、ジアステレオマー(不斉中心が2個以上ある光学異性体)についてクラム則とよばれる経験則を発見した。その後、ペダーセンによりクラウンエーテルが発見されると、クラムはその物質の詳しい研究に取り組んだ。クラウンエーテルは環状ポリエーテルで、特定の金属イオンや有機陽イオンを取り込む性質をもっている。彼は、この性質を利用してアミノ酸の対掌体を識別できるクラウンエーテルの人工合成に成功した。さらにこのような基本分子(ホスト)と取り込まれる分子(ゲスト)との相互作用を研究するホスト・ゲスト化学という新しい研究分野を開発した。クラムは、「高い選択性のある構造特異的な相互作用をおこす分子の開発と利用」の研究に貢献したとして、ペダーセンとともに1987年のノーベル化学賞を受賞した。また同様にクラウンエーテルの研究を行ったレーンも同時受賞した。
[編集部 2018年7月20日]