レーン(読み)れーん(英語表記)Lehn ドイツ語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーン」の意味・わかりやすい解説

レーン(Jean-Marie Lehn)
れーん
Jean-Marie Lehn
(1939― )

フランスの化学者。アルザス地方の古い町ロスハイムに生まれる。ストラスブール大学で化学を学び、1963年同大学で博士号を取得した。ハーバード大学留学を経て、1966年ストラスブール大学の助教授になり、1970年教授に昇格した。1972年と1974年にハーバード大学の客員教授も務め、1979年からはコレージュ・ド・フランスの化学教授を兼任した。

 レーンは、ハーバード大学時代にR・B・ウッドワードがビタミンB12合成に成功した研究に参加した。ストラスブール大学に戻ってからは物理有機化学の分野で研究を進め、C・J・ペダーセンの発見したクラウンエーテルの三次元構造を追究した。クラウンエーテルは特定の化合物イオンを選択的に取り込む性質をもつが、レーンが合成に成功した三次元環化合物はさらに選択性が高いものでクリプタンドと名づけられた。その後もクリプタンドの研究を進め、「超分子化学」という新分野を開拓した。1987年に「高い選択性のある構造特異的な相互作用をおこす分子の開発と利用」の研究に貢献したとしてノーベル化学賞をペダーセンとともに受賞した。同様にクラウンエーテルの研究を進めたD・J・クラムも同時受賞した。

[編集部 2018年12月13日]

『J・M・レーン著、竹内敬人訳『レーン 超分子化学』(1997・化学同人)』


レーン(封土)
れーん
Lehn ドイツ語

中世西ヨーロッパの封建制度において、家臣(封臣)に対し、その奉仕(多くの場合騎士としての軍役奉仕)の代償として主人(封主)が授与する土地(所領)。一般に封土と訳される。恩貸地(ラテン語でベネフィキウムBeneficium)ともいう。英語やフランス語ではfiefということばで表現される。封建制度を意味するドイツ語術語「レーン制」LehnswesenがLehnからつくられたように、英語のfeudalism、フランス語のféodalitéも、fiefのラテン語形feudum (feodum)からつくられた。fiefの語源はかならずしも明らかでないが、家畜を意味するゲルマン語(現在のドイツ語のViehにあたる)だったとする説が有力である。ドイツ語のLehnはLeiheなどと同根で、一般に借地を意味した。

 レーンとして授与されるもの(これをレーン材という)は、土地=所領である場合が大部分であったが、グラーフ(伯)職や大公職のような官職、また高級裁判権、関税徴収権、貨幣鋳造権、市場開設権、鉱山採掘権のような経済的収益を伴う権利(これらはもともと国王の大権事項、すなわちレガリアであった)もまた、レーンとして与えられた。さらに中世末期になると、年金の形で現金を支給することにより封建関係を取り結ぶ慣行も生まれた。このようなレーンはmoney fief(英語)、fief rente(フランス語)、Rentenlehn(ドイツ語)とよばれた。家臣(受封者)が封建的義務を履行しない場合にはレーンは没収されたし、受封者が死亡するとレーンは回収されるのが原則であったが、しだいにレーンに対する受封者の側の世襲権が確立し、レーンの没収も主従間の力関係いかんによっては実行不可能な場合もあった。とくにドイツでは13世紀以降、没収したレーンは、1年と1日以内に新しい受封者に再授封しなければならないという、いわゆる授封強制の原則が成立した。

[平城照介]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レーン」の意味・わかりやすい解説

レーン
Lehn, Jean-Marie

[生]1939.9.30. フランス,ロースハイム
フランスの化学者。 1963年ストラスブール大学で博士号を取得,70年同地のルイ・パスツール大学教授,79年パリのコレージュ・ド・フランス教授。 C.J.ペダーセンが合成した2次元の環状化合物クラウン・エーテルを3次元に発展させる研究を進め,アセチルコリンの受容体に相当する物質クリプタンドの合成に成功した。これはクラウン・エーテルより選択性が高く,アニオンの認識機能ももつ物質で,化学,医学をはじめ多分野への応用が期待された。 87年ペダーセン,D.J.クラムとともにノーベル化学賞を受賞。

レーン
Lane, Robert Edward

[生]1917.8.19. フィラデルフィア
アメリカの政治学者。精神分析学の方法を用いて政治的イデオロギーの社会的文化的源泉を分析した。主著"Political Ideology: Why the American Common Man Believes in What He Does" (1962) 。

レーン
Leh(e)n

ドイツ語で封建制の物的基盤である封土のことをさす。主として知行の対象となる土地のことであるが,官位,権利,まれには定期金 (収入源) をさす場合もある。 12世紀末まではベネフィキウムとも呼ばれた。このほか,農民の小作地を呼ぶのに用いることもある。

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