日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラスキン」の意味・わかりやすい解説
ラスキン
らすきん
John Ruskin
(1819―1900)
イギリスの批評家。ロンドンの富裕なぶどう酒商の家に生まれる。父についてヨーロッパ大陸を訪ね、美しい風景や優れた美術、建築に接する機会に恵まれたことが彼の将来を決定した。オックスフォード大学を卒業。1842年王立美術院のターナーの作品が世評の攻撃を浴びたのを弁護する目的で書き始めた『近代画家論』5巻(1843~60)が彼の主著となった。ターナーやラファエル前派運動の理解者であった彼が、1877年のホイッスラーの作品を今度は攻撃して名誉毀損(きそん)の罪に問われ、美術界での権威を失ったのは運命の皮肉であった。その間『建築の七灯』(1849)、『ベニスの石』3巻(1851~53)などヨーロッパ建築に目を向けた彼は、それらの基礎を支える労働者の生活に関心を示し、実践的立場からの社会、経済、政治問題にも健筆を振るった。『この最後の者にも』(1862)はその方面での代表作。
[前川祐一]
『沢村寅二郎・石井正雄訳『近代画家論』(1940・弘文堂)』▽『飯塚一郎訳『この最後の者にも』(『世界の名著41』所収・1971・中央公論社)』