クラウンエーテル(読み)くらうんえーてる(その他表記)crown ether

デジタル大辞泉 「クラウンエーテル」の意味・読み・例文・類語

クラウン‐エーテル(crown ether)

酸素原子が環の一部をなす、環状ポリエーテル総称。名称は分子模型王冠に似ていることに由来。一般構造式 (-CH2-CH2-O-)n で表され、環を構成する全原子数をx、酸素原子数をyとすると、x-クラウン-yと命名される。環の内側ナトリウムなどの金属イオンを取り込む特性をもつ。1967年、米国デュポン社の化学者チャールズ=ペダーセンが発見し、1987年にノーベル化学賞を受賞した。

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精選版 日本国語大辞典 「クラウンエーテル」の意味・読み・例文・類語

クラウン‐エーテル

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] crown ether ) 大環状ポリエーテルの総称。陽イオンを選択的に分子内に取り込み、安定した錯体を形成する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラウンエーテル」の意味・わかりやすい解説

クラウンエーテル
くらうんえーてる
crown ether

酸素原子が環の一部を構成する環状ポリエーテルの総称。1967年にアメリカのデュポン社のペダーセンが偶然に合成し、その構造上の特性とともに報告したが、正式命名法による名称が複雑になりすぎること、類縁化合物の名称に類似性が乏しくなること、また、分子模型をつくると王冠の飾りのような形になることから、クラウンと命名することを提案し、以後広く用いられている。

 クラウンエーテルは、環の主鎖置換基疎水性、エーテル酸素が親陽イオン性をもつため、水溶性の陽イオンを環の中に三次元的に取り込み、疎水性有機溶媒との親和性を高める作用を示す。取り込まれる陽イオンは、クラウンエーテルの環構造がつくる空洞寸法があうものでなければならないので、そのような陽イオンだけを選択的に分離するのに利用される。また、置換基、環の大きさなどを適当に設計して合成したものは、空洞の物理・化学的性質に適合する化合物あるいはイオンを選択的に取り込むため、酵素に類似した機能を発揮する人工合成化合物として、触媒化学、反応化学などの面でも利用されている。

 クラウンエーテルと他の化学種との間で生じた化合物、あるいはクラウンエーテルそのものをクラウン化合物ということがある。クラウンエーテルに類似した機能をもち、酸素原子の一部が窒素原子となったもの、あるいは全部硫黄(いおう)原子となった化合物も合成されている。

[岩本振武]


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化学辞典 第2版 「クラウンエーテル」の解説

クラウンエーテル
クラウンエーテル
crown ether

次の(a)~(c)のような構造の大環状ポリエーテルの総称.

環のなかに酸素原子のほか,窒素原子を含むクリプタンド類やトリシクロ化合物など多数の大環状ポリエーテルが合成され,クラウン化合物ともよばれている.(a)~(c)に示したようなクラウンエーテルの慣用名は,ポリエーテル環の大きさと,クラウンという名称と,ポリエーテルの環中のヘテロ原子の数を,順にハイフンでつないで命名したものである.クラウンエーテルは,環を構成している酸素原子の非共有電子対を使って陽イオンを選択的に取り込み,安定した錯体を形成する能力をもつ.この性質を利用して,KOH,t-BuOK,KMnO4,K2PdCl4などを有機溶剤に溶かしたり,BaSO4を水に溶かしたりすることができる.また,陽イオンを取り込むことにより,陰イオンを活性にしたり,キラルなクラウンエーテルによる光学分割など,興味ある性質がいろいろ研究されている.二環式クラウンエーテルはクリプタンドという.

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