日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラウンエーテル」の意味・わかりやすい解説
クラウンエーテル
くらうんえーてる
crown ether
酸素原子が環の一部を構成する環状ポリエーテルの総称。1967年にアメリカのデュポン社のペダーセンが偶然に合成し、その構造上の特性とともに報告したが、正式命名法による名称が複雑になりすぎること、類縁化合物の名称に類似性が乏しくなること、また、分子模型をつくると王冠の飾りのような形になることから、クラウンと命名することを提案し、以後広く用いられている。
クラウンエーテルは、環の主鎖と置換基が疎水性、エーテル酸素が親陽イオン性をもつため、水溶性の陽イオンを環の中に三次元的に取り込み、疎水性有機溶媒との親和性を高める作用を示す。取り込まれる陽イオンは、クラウンエーテルの環構造がつくる空洞と寸法があうものでなければならないので、そのような陽イオンだけを選択的に分離するのに利用される。また、置換基、環の大きさなどを適当に設計して合成したものは、空洞の物理・化学的性質に適合する化合物あるいはイオンを選択的に取り込むため、酵素に類似した機能を発揮する人工合成化合物として、触媒化学、反応化学などの面でも利用されている。
クラウンエーテルと他の化学種との間で生じた化合物、あるいはクラウンエーテルそのものをクラウン化合物ということがある。クラウンエーテルに類似した機能をもち、酸素原子の一部が窒素原子となったもの、あるいは全部が硫黄(いおう)原子となった化合物も合成されている。
[岩本振武]