改訂新版 世界大百科事典 「クルミ」の意味・わかりやすい解説
クルミ (胡桃)
walnut
Juglans spp.
種子が食用にされるクルミ科クルミ属の数種の植物の総称。園芸上は堅果(殻果)類に分類される落葉果樹。日本の山野に自生しているクルミにはオニグルミJ.sieboldiana Maxim.とヒメグルミJ.subcordiformis Dodeとがある。栽培種には,ペルシア,カフカス地方の原産で明治初年にアメリカから導入されたペルシアグルミJ.regia L.と,古い時代に中国から朝鮮半島を経て渡来したテウチグルミJ.regia L.var. orientalis Kitamuraとがある。テウチグルミはペルシアグルミの変種で,チョウセングルミ,カシグルミともいわれる。長野県での栽培が多いシナノグルミはテウチグルミとペルシアグルミの自然交雑によって生じた雑種といわれている。
樹高が十数mにもなる高木。果実は堅果で,内部の仁を食用とする。花は単性花で雌雄同株,5月ごろ開花する。花弁のない雌花は枝頂端の葉腋(ようえき)から出た花序に数花つき,直立している。雄花は垂下する。花序に多数が穂状につく。野生のヒメグルミ,オニグルミとも堅果が硬くて破殻が困難である。果実中に占める仁の割合は低く,食用には良質でない。ペルシアグルミやシナノグルミには殻が薄くて破殻の容易な品種が多く,仁の果実中に占める割合が高い。ペルシアグルミにはフランケット,コンコード,ユーレカなどの品種があり,シナノグルミには晩春,信鈴,金豊などの品種がある。テウチグルミは長野,新潟,山形,岩手,秋田の諸県に栽培がみられるが,堅果が小さくて殻が硬く,破殻が困難で,果実中に占める仁の割合も低い。
古くからナッツとして食用に供され,しばしばクリとともに先住民の遺跡から発掘される。貯蔵性に富むため,東北地方などでは古い時代に飢饉時の救荒作物として栽培が奨励されたといわれる。仁はタンパク質,脂肪を多く含み,栄養価に富む。ナッツとしての利用のほか,菓子原料としての需要も多い。また,仁からはクルミ油をとり,食用とするほか化粧品や香料の混ぜもの,油絵具などにも使われる。樹皮からは染料を,材は硬く良質であるため,家具や建材などに賞用されている。
執筆者:志村 勲
料理
クルミは漢の張騫(ちようけん)が西域から将来したとされる。日本でも古くから食用とし,搾油もしていた。《延喜式》を見ると信濃,甲斐,越前,加賀などから種実,あるいは油が貢納されていたことがわかる。脂肪,タンパク質に富む食品で,殻を割って取り出した子実(仁)はそのまま酒のつまみなどとして食べるほか,菓子や料理に使われる。刻んでクルミ餅やクルミようかん,あるいはすしに使い,すりつぶして酢,みそ,しょうゆと合わせてあえ物などに用いる。
執筆者:菅原 龍幸
伝承,民俗
古代ギリシア・ローマではクルミをはじめ堅果をつける木は最高神ゼウスに捧げられた。北欧神話には女神イズンがクルミに変えられる話がある。クルミは硬い殻に実が包まれていることから生命や不滅のシンボルになる。そして人々は結婚式やクリスマスに豊饒(ほうじよう)や子宝のシンボルとしてクルミを贈る。その葉を聖体祭の葉飾りにするが,それは聖母マリアがベツレヘムに行く途中クルミの木が雨を防いだという伝説に由来するとされる。上部オーストリアでは娘たちは棒をこの木に投げ,最初に枝にひっかけた者が同じ年の内に結婚できるという。また新婚夫婦が聖夜にクルミを火中に投じ,それが静かに燃えたら結婚生活は安泰で,はぜたらけんかが起こるともいう。
執筆者:谷口 幸男
クルミ科Juglandaceae
双子葉植物,すべて木本で8属約40種を有し,主として北半球の温帯に分布する。種子は脂肪分に富み,クルミやペカンなど食用のナッツとして優れたものがある。葉は羽状複葉で,互生(まれに対生)し,托葉はない。雄花と雌花があり,それぞれ花序をなす。雌雄同株。雄花序は長い尾状花序で,前年枝の葉腋(ようえき)に垂れ下がるものが多い。雌花序は当年枝の先端につき,少数または多数の雌花をつける。子房は1室であるが,内部には不完全なしきりが発達することが多い。花柱は二つに分かれ,内面が柱頭となる。果実は核果様のもの(クルミ属など)と翼が発達するもの(サワグルミ属など)がある。1種子があり,種子は子葉で満たされ胚乳はない。子葉は複雑な形に折りたたまれていることが多い。材は堅くて狂いが少なく,衝撃に強いので,家具や器具材のほか,銃床(クルミ)やスキー板(ヒッコリー)などさまざまな用途に使われる。種子は脂肪に富み,クルミやペカンのように大型のものは重要な食料となる。
執筆者:岡本 素治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報