日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロホシイシモチ」の意味・わかりやすい解説
クロホシイシモチ
くろほしいしもち / 黒星石持
spotnape cardinalfish
[学] Ostorhinchus notatus
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科スジイシモチ族に属する海水魚。伊豆大島、千葉県館山(たてやま)湾から屋久島(やくしま)、南西諸島、済州島(さいしゅうとう)(韓国)、台湾、フィリピン、ニュー・カレドニアなど西太平洋の海域に広く分布する。体は中庸の長楕円(ちょうだえん)形で側扁(そくへん)し、体高は体長の3分の1よりわずかに高い。頭長はおよそ体高に等しい。目は大きく、眼径は吻長(ふんちょう)より大きい。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下に達する。上主上顎骨はない。上下両顎には犬歯状の歯がない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隆起線には鋸歯(きょし)がないが、腹縁には鋸歯がある。背びれは胸びれ基底上方から始まり、2基でよく離れ、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方のやや後方から始まり、2棘8軟条。胸びれは15軟条。頭部と体の鱗(うろこ)は櫛鱗(しつりん)で、有孔側線鱗数は26枚。鰓耙(さいは)は上枝に7本、下枝に21本。尾びれの後縁はわずかにくぼむ。体色は桃赤色で、腹側部で淡い。上顎先端から目に達する黒色の縦帯と、頭頂部に左右1対(つい)の黒色の小円斑(えんはん)がある。下顎の先端は黒い。尾びれの基底中央部に黒色斑がある。背びれの前部から上部にかけて黒く、第2背びれと臀びれの基底に沿って黒色帯がある。
水深5~10メートルの外海に面した岩礁域で群生する。夜行性。産卵期の6~9月には雌雄は対になり、テリトリーをつくり、ほとんど雌が防御する。雌の腹面をつついて産卵を促すために雄の下顎の前端が突出する。雄が卵塊を口にくわえ、孵化(ふか)するまで保護する習性がある。卵塊を口の大きさにあわせるために、はみだした卵を食べることがある。全長10センチメートルほどに達する。小形の魚のため食用としての価値は少ない。
本種はスジイシモチ属に属する。長く慣習的にコミナトテンジクダイ属(旧、テンジクダイ属)Apogonが使用されてきたが、2014年(平成26)に、魚類学者の馬渕浩司(まぶちこうじ)(1971― )らがDNAの分析結果に加えて、前鰓蓋骨の腹縁が骨質であることなどの形態的特徴から、スジイシモチ属へ移動した。ネンブツダイに似るが、体の背側面に縦帯がなく、頭頂部に黒斑があることで区別できる。
[尼岡邦夫 2022年1月21日]