日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネンブツダイ」の意味・わかりやすい解説
ネンブツダイ
ねんぶつだい / 念仏鯛
Indian little perch
[学] Ostorhinchus semilineatus
硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科スジイシモチ族に属する海水魚。太平洋側では青森県から、日本海側では山形県から九州の南岸まで、宮古島、慶良間(けらま)列島、台湾、朝鮮半島南岸、中国、フィリピン、インドネシア、オーストラリア北西岸などの海域に広く分布する。体は中程度の長楕円(ちょうだえん)形で側扁(そくへん)し、目は大きく、眼径はおよそ吻長(ふんちょう)に等しい。口が大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下に達する。上主上顎骨はない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)は隆起部分には鋸歯(きょし)がないが、縁辺にはある。背びれは胸びれ基底上方から始まり、2基でよく離れ、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、2棘8軟条。胸びれは14軟条。頭部と体の鱗(うろこ)は櫛鱗(しつりん)で、側線有孔鱗数は25枚。鰓耙(さいは)は上枝に6本、下枝に18本。尾びれの後縁はわずかにくぼむ。体色は桃赤色で、腹側部で淡い。上顎先端から目を通り鰓蓋上部の後端に達する黒色帯と、その上方を平行に走り、第2背びれの後端基部下に達するすこし細い黒色帯がある。腹部には縦帯がない。尾柄(びへい)の基部に瞳孔(どうこう)より小さい黒色の円斑(えんはん)がある。第1背びれの先端部は黒色。内湾から水深3~100メートルの岩礁周辺の砂泥底に群れをつくってすみ、もっとも普通にみられる種である。産卵期の7~9月には雌雄は対(つい)になる。体色は鮮やかな橙(だいだい)色になり、上顎の先端は突出する。産み出された卵は粘着性の糸で互いに連なり、これを普通、雄が口にくわえ、孵化(ふか)するまで保護する習性がある。全長15センチメートルほどに達する。小形の魚のため食用としての価値は少ない。本種は2014年に、DNAの結果に加えて、前鰓蓋骨の腹縁が骨質であることなどの特徴をもつことから、長く慣習的に使用されてきたコミナトテンジクダイ属(旧、テンジクダイ属)Apogonからスジイシモチ属へ移動した。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]