改訂新版 世界大百科事典 「ケーブルテレビ」の意味・わかりやすい解説
ケーブルテレビ
ケーブルテレビジョンcable televisionの略。ケーブルでテレビ信号を伝送,分配サービスを行う有線テレビジョン放送システム,またはその事業をいう。テレビ電波の届きにくい山かげあるいはビルかげの受信世帯のために,受信良好地点に共同でアンテナを設置し,そこで受信した良好な電波を同軸ケーブルで各家庭に分配する共同アンテナテレビジョンが発祥である。これはCATV(Community Antenna Television)あるいはMATV(Master Antenna Television)という。このCATVは地上放送のVHFテレビ,UHFテレビ,FM放送,および衛星放送(BS),通信衛星(CS)放送の再送信,さらに事業者が制作・購入した自主番組も送出する大規模なケーブルテレビに発展した。
ケーブルテレビのしくみ
事業者はさまざまな番組ソースをヘッドエンドと呼ばれる設備を通して再配列してケーブルに送り出し,契約受信者はそれぞれの課金制度のもとで,各種の放送,映画,スポーツ,専門情報などの番組サービスを受けることができる。近年では,受信者からの上り回線を用意したいわゆる双方向性のシステムもあり,インターネットとの接続など,さまざまなサービス拡張が試みられている。このようなシステムは都市型ケーブルテレビといい,日本では1997年現在,施設数約200,加入世帯数は約300万,テレビチャンネル数は40程度まである。ケーブルの周波数帯域幅はVHF帯からUHF帯を含む450MHzのものがふつうだが,多チャンネル化に向けて750MHzにも及ぶ広帯域のものもある。ケーブルとしては同軸ケーブルのほかに光ファイバーを併用したものも運用されている。
執筆者:村崎 圭助
ケーブルテレビの発展
ケーブルテレビの発展と直接に関係するのは,当然のことながら電波による通常のテレビ放送,通信衛星(CS)あるいは放送衛星(BS)を利用した衛星放送の発展の状況である。アメリカでは,通常のテレビ放送が市場性の低い周辺地域を軽視するかたちで発展したために,それらの地域にケーブルテレビが散在し,そうしたケーブルテレビに番組を直接供給する衛星利用のサービス(例えばCNN)が発達し,逆に通常のテレビ放送を脅かすまでに至った。その後にBSの直接衛星放送が出てくるが,すでに活躍の余地が狭く,十分な市場を獲得するには至っていない。ヨーロッパでは通常の地上のテレビ放送は早くから発達していたが,多くの国が陸続きで国境を接するために,隣接の国のテレビ放送が自然に受信できることが多く,そうした条件の国々ではケーブルテレビの発達を促進した。その後に広域の個別の受信を前提としたCS衛星放送が登場し,ヨーロッパは広くCSによる衛星放送を享受することとなった。
日本では制度上,公共放送が全国的普及を義務づけられてきたために,地上の通常のテレビ放送の発達がすべてに先行し,ケーブルテレビはあくまでもこの通常のテレビ放送を補完する2次的な位置にあるものとして扱われ,十分な発達を見なかった。BS放送がその後に登場し,これも通常放送とセットになって新しい番組サービスをする側面と,通常のテレビ放送の補完の役割をもって,制度的な保護のもとに公共放送部分は順調に発達している。CSはさらにその後に出てきたために,多チャンネルの魅力は理解されるものの,まだ将来について確実なことが言える段階にはない。こうしたなかで新しい多チャンネル型の,いわゆる都市型ケーブルテレビが遅ればせに登場してきた。このタイプはBSを取り込みながら,通常のテレビにもBSにもない多チャンネルの魅力で普及がゆっくりと進行している。ケーブルテレビが伸びていくのか,CSの直接受信が伸びていくのか,まだ決定的なことは言えない。
ケーブルテレビは,類似のサービスを行う他のテレビとの間に協調と競争の戦略をめぐらしているが,すでに一部にみられるように,放送とは異なる通信系のサービスを展開するなど,家庭の情報システムとしての未来も視野に入れているとみていいであろう。
→テレビジョン
執筆者:後藤 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報