日本大百科全書(ニッポニカ) 「コケムシ」の意味・わかりやすい解説
コケムシ(触手動物)
こけむし / 苔虫
moss animal
触手動物門の1綱Bryozoaおよびそれに属する種類の総称。水にすむ群体性の付着動物で、多虫類Polyzoa、外肛類(がいこうるい)Ectoproctaの別名もある。個虫とよばれる体長1ミリメートル以下の動物体が無性出芽によって数を増やし、被覆状、樹枝状、塊状などさまざまな形の群体をつくる。群体は石、貝殻、海藻などの表面に固着し、一見、陸生植物のコケに似ているのでこの名があり、苔形(こけがた)動物ともよばれる。
[馬渡峻輔]
分類
古生代オルドビス紀の地層から化石が知られている、古くから出現している動物群で、多くの絶滅種は隠口類と変口類に分類される。現生種は馬蹄(ばてい)形の触手冠をもつ掩喉類(えんこうるい)(オオマリコケムシなど)、円筒形の虫室をもつ円口類(キクザラコケムシなど)、虫室がキチン質でできている櫛口類(しっこうるい)(センナリコケムシなど)、コケムシ類中もっとも繁栄していて種類数の多い唇口類(しんこうるい)(チゴケムシなど)の4目(もく)に分けられる。少数の淡水産種(すべて掩喉類)のほかは海にすみ、全世界の潮間帯から深海まで数千種が分布している。
[馬渡峻輔]
体制
群体は同じ形をした個虫が多数連結したものである。群体の形成や付着生活への適応のため、個虫の体は単独生活や自由生活を送る動物たちとはかなり異なっている。キチン質、寒天質、石灰質などでできた虫室とよばれる外骨格の中に、虫体とよぶ動物本体が収まって一つの個虫をなす。虫体の前端には触手冠がある。これは、中央に口の開く盤状部に数本から数十本の触手が馬蹄形または円形に配列した構造物である。虫室の前端には開閉可能な開口部があり、そこから虫体の前部が突出し、触手を花のように広げる。触手の表面には繊毛が密生しており、それらを動かして水流をおこし、ガス交換を行うと同時に海水中の微少な有機物を口へ運ぶ。取り入れた食物はU字形の消化管で消化し、触手冠の外側に開く肛門から小さく固めた糞(ふん)を排出する。循環系、排出器系を欠き、神経系も単純である。
個虫には多形現象がみられ、餌(えさ)をとる通常の個虫のほかに、群体の支持、防御、清掃などの目的にそれぞれ分化した空個虫、鳥頭体(ちょうとうたい)、振鞭(しんべん)体などの異形個虫が存在する。
[馬渡峻輔]
生活史
群体は雌雄同体で体内受精を行う。受精卵はただちに水中へ放出されるか、あるいは卵室とよばれる特別な保育器官の中や虫室内で幼生となるまで育てられる。多くの場合、幼生は口も消化管ももたず、1~2日水中を泳いだのち、適当な場所をみつけて付着する。一方、少数の種では、2枚の殻と消化管を備えた長期遊泳型のキフォナウテス幼生が知られている。付着した幼生は初虫へと変態し、初虫は次々と個虫を出芽して群体となる。
[馬渡峻輔]
人間生活との関係
コケムシ類には、人間生活に益をもたらす種は見当たらない。水中に置かれた人工物によく付着して害を及ぼす、いわゆる汚損生物である。たとえば、船の底に付着して航行速度を鈍らせ、養殖施設の網や定置網を覆って目詰まりをおこさせる。また、養殖コンブに付着してその品質低下をもたらす例も知られている。
[馬渡峻輔]
コケムシ(昆虫)
こけむし / 苔虫
昆虫綱甲虫目コケムシ科Scydmaenidaeに属する昆虫の総称。世界各地に分布し、2000種以上が知られ、日本には二十数種が記録されているが、まだ多くの種があるといわれる。体長1~5ミリメートルぐらいで、3ミリメートル以下のものが多い。卵形ないしは細長いひょうたん形、色は黄褐色ないし褐色で光沢がある。触角は先の3、4節がすこし太く、前胸の後部には2~5のくぼみがあり、上ばねの根元にもくぼみがある。落ち葉や腐植土の中にすみ、朽ち木の皮下、コケの中、石の下などにもおり、またアリやシロアリといっしょにみいだされることもある。
[中根猛彦]