古生代の古いほうから第3番目の地質時代で、オルドビス紀とデボン紀の間の約4億4340万年前から約4億1920万年前までの約2420万年間に相当する。シルル紀に形成された地層をシルル系という。シルル紀の名称の由来は、1835年にイギリスの地質学者マーチソンが、イギリスのウェールズ山地の研究で、旧赤色砂岩層の下位にある海産化石を多産する地層に対して、この地方に住んでいた古代民族シルルの名にちなんで命名したのに始まる。シルル紀は、現在のオルドビス紀を加えた広義に用いられたり、ゴトランド紀の名でよばれたこともあった。古生代型無脊椎(せきつい)動物の全盛期で、とくに、単軸型筆石類(ふでいしるい)は全盛を極め、多くの種が分化し、ウェールズやボヘミアなどで筆石類を用いて地層の詳しい分帯が行われている。触手動物の腕足類や刺胞動物のサンゴ類も繁栄を極める。サンゴ類では、床板サンゴ類に属するクサリサンゴ科、ハチノスサンゴ科などのものが大きな群体を形成し、層孔虫類などとともに礁(しょう)を形成した。このほか、節足動物の三葉虫類および広翼類(ウミサソリの仲間)、棘皮(きょくひ)動物のウミユリ類・ウミリンゴ類などが豊富に知られている。脊椎動物では原始的な魚類のみが知られ、現生の頭甲類(円口類、ヤツメウナギを含む)に近縁な無顎(むがく)類があげられる。この時代の終わりには、原始的なあごの器官を有する板皮(ばんぴ)類が出現した。植物では、最古の維管束植物とされるマツバラン類が当紀末に知られている。
この時代の地層は、イギリスをはじめ、北ヨーロッパ、北アメリカ東部などに分布し、日本でも岩手県、岐阜県、高知県、宮崎県などに分布が知られており、クサリサンゴ類や三葉虫類を産する。シルル紀の後期はカレドニア造山運動期にあたり、活発な地殻変動があった。
[小澤智生・渡辺耕造 2015年8月19日]
『リチャード・T・J・ムーディ、アンドレイ・ユウ・ジュラヴリョフ著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅠ 地球の起源からシルル紀』(2003・朝倉書店)』
古生代第3番目の紀で,約4億3800万年前から4億0800万年前までのおよそ3000万年間をいう。シルル紀の名はイギリスの古い民族名シルリアSiluresからとられたものだが,最初の命名はのちのカンブリア紀の地層の一部とオルドビス,シルル両紀のものを併せた長い地質累層の時間に対してなされたものであった。その後その上半部分相当の地層が表す時代に対してゴトランド紀Gotlandian periodという名称が通用するようになり,種々の混乱を避けるために,改めて旧シルル紀の前半をオルドビス紀,後半すなわちゴトランド紀をシルル紀(狭義)と呼ぶように国際的な合意が得られた。この時代には海生無脊椎動物のうち,床板サンゴ類をはじめとする造礁性動物ならびにその周辺に生活する非造礁性動植物が栄えた。しかし,カンブリア紀からオルドビス紀にわたって全盛を誇った三葉虫類,直角石型のオウムガイ類などはしだいに衰えて,代わってスピリファー類を中心とする腕足類が栄える。
日本のシルル紀は,南部北上山地,飛驒山地,西南日本外帯の球磨-紀伊山地などの各地に,小規模に分布するのみであるが,花コウ岩岩片などを含む砕屑(さいせつ)性堆積岩や炭酸塩岩類が多く,石灰岩中にはハリシテス(クサリサンゴ)類をはじめ,かなりの水の動きの激しいサンゴ礁環境があったことを示唆している。三葉虫類,床板サンゴ類,層孔虫類などの化石を多産する。
→地質時代
執筆者:浜田 隆士
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…海産のおもな動物群は,古生代の初め(カンブリア紀)にそのほとんどが出現しており,魚類は少しおくれて,オルドビス紀に原始的な甲冑魚として出現する。陸の生物が海から移りすむのは,その後のシルル紀である。海の生物の中には,顕花植物のアマモや,哺乳類のクジラ,アザラシ類などのように,陸上で進化したグループが,再び海に生活の場を求めて適応進化したものもいる。…
※「シルル紀」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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