コバンムシ(読み)こばんむし

改訂新版 世界大百科事典 「コバンムシ」の意味・わかりやすい解説

コバンムシ (小判虫)
Ilyocoris exclamationis

半翅目コバンムシ科の昆虫。小判形の水生カメムシの意味で,英名saucer bugも円盤状の形からきたもの,またcreeping water bugは歩行が巧みであるためつけられたのだろう。幼虫成虫と同じように緑色で,腹背に1対の背腺(臭腺開口がある。成虫は体長12mm前後,半翅鞘(前翅)の膜質部に脈がない。口吻(こうふん)は短くて大きい。前脚は強力な捕獲脚となり,中・後脚は泳ぐのにも歩くのにも使われる。本州,九州の水草の多い池沼で捕食生活をする。餌は水生昆虫。越冬した成虫は春から初夏にかけ,水草の茎内に卵を1個あて並べて産む。7月末には新成虫も若い幼虫も発見できる。近縁のナベブタムシAphelocheirus vittatusはコバンムシより幅が広く,平たいのでなべのふたのようだという意味。口吻は非常に長く,細いのでナベブタムシ亜科として区別される。渓流の礫(れき)を交じえた砂底,多少水草の生えた場所を好み,トビケラその他の幼虫を捕食する。成虫の体表は非常に薄い空気層で覆われ,これがえらとして働くので,他の水生昆虫の成虫のように空気に触れることはなく,一生水中で過ごすことができる。体長9mm前後。日本にはほかにトゲナベブタムシ,カワムラナベブタムシが分布する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コバンムシ」の意味・わかりやすい解説

コバンムシ
こばんむし / 小判虫

昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目コバンムシ科Naucoridaeの水生昆虫の総称、またはそのなかの1種。体がやや厚みのある小判形で一見ゲンゴロウに似た形のものと、扁平(へんぺい)な円盤状のものとがあり、前者をとくにコバンムシとよぶ。日本には4種が知られ、うち3種はナベブタムシ類である。はねには脈がなく、尾端に呼吸管もない。前脚(ぜんきゃく)は捕獲脚(あし)となり、中脚と後脚には長毛が生え、泳ぐのに適している。

 種のコバンムシIlyocoris exclamationisは体長12ミリメートル内外で、体は黄緑色ないし褐色で光沢がある。水草や挺水(ていすい)植物の豊富な深い池沼にすみ、活発に泳ぎ回り水生小動物を捕食する。日本では本州と九州に分布するが、最近は水の汚染などで珍しい昆虫となった。

[林 正美]

 2023年(令和5)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)で特定第二種国内希少野生動植物種に指定され、販売や頒布を目的とした捕獲や譲渡などは原則禁止されている。

[編集部 2023年4月20日]


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