日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
コブラ(現代美術のグループ名)
こぶら
Cobra
ヨーロッパ現代美術のグループ名。1948年デンマーク、ベルギー、オランダの前衛美術運動が合流して結成され、51年まで展覧会活動を行った。コブラという名称はそれぞれの国の首都コペンハーゲンCopenhagen、ブリュッセルBruxelles、アムステルダムAmsterdamの頭文字を組み合わせたものである。その中心的なメンバーにはデンマークのヨルンAsger Jorn(1914―73)、ベルギーのアレシンスキー、オランダのアペルがいる。広義には抽象表現主義の一翼をなしているが、北欧表現主義の伝統にたって、原色を基調とする色彩の陶酔と振幅に富む激情的なマチエールの駆使とによって意識の解放を実現するとともに、合理的、機能的な抽象化に反対して「人間」の問題を表現の中心に置き、反文明的な志向を明らかにしている。それは、戦争による荒廃のつめあとを青春の情感に生々しく刻印された世代の、いわば報復的な熱狂であったかもしれないが、この熱狂が暗く長いトンネルをくぐり抜けた第二次世界大戦後の美術に新しい視覚を衝撃的に目覚めさせた功績は高く評価される。1951年パリ展を頂点としてグループは解散し、各自の制作に分化していった。
[野村太郎]