改訂新版 世界大百科事典 「ゴットヘルフ」の意味・わかりやすい解説
ゴットヘルフ
Jeremias Gotthelf
生没年:1797-1854
スイスの小説家,牧師。本名ビツィウスAlbert Bitzius。父もプロテスタントの牧師で,少年期を父の任地の農村ですごす。ベルンのアカデミーとゲッティンゲン大学で学ぶ。1831年より死に至るまでエメンタールの農村リュッツェルフリューの牧師。彼は原始キリスト教徒の信仰と生活を理想とする頑固な保守主義者だった。農民の野蛮な生活と無信仰に立腹したが,為政者の農村に対する冷淡な態度にも憤慨し,ペンを武器として時代の退廃を告発する闘争的行動人になった。彼は民衆教育を社会改良運動のかなめとみなす点で,ペスタロッチと精神的同族である。鋭い観察の裏づけをもつ一連の作品によって19世紀の偉大な写実主義作家としての評価が高い。方言色濃厚な文体の作品には一種独特の迫力と魅力がある。ベルリンのシュプリンガー書店刊の彼の作品のドイツ語訳は北ドイツのプロテスタントに歓迎され,版を重ねて,G.ケラーを羨望させた。作品は邦訳のある《ウーリー物語Uri der Knecht》(1841),《黒い蜘蛛》(1842),《奇妙な下女エルジー》(1843)のほか,《農民の鏡》(1837),《小作人ウーリー》(1849)など多数。全40巻の全集がある。
執筆者:増田 義男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報