半導体デバイスの一種。外部回路から見ると,スイッチと等価のような二つの安定状態をもち,オフ状態からオン状態へ,あるいはまたその逆の切替えを行える。三つ以上のp-n接合をもち,そのスイッチング作用により電力の流れを制御する目的におもに使用される。すなわち,電力変換装置や半導体のスイッチとしての応用である。その容量は家電製品で用いられる数百V,数A級のものから,電力システム用の数千V,数千A級まで広範囲にわたっている。サイリスターには多くの種類があるが,通常もっとも多く使われているSCR(silicon controlled rectifierの略)と呼ばれる逆阻止3端子形のサイリスターを略して単にサイリスターということが多い。
逆阻止3端子サイリスターは図1に示すようなp-n-p-n4層構造をもつ。これは二つのトランジスターが接続された図2の回路と等価であるとも見られる。p1層につけた電極(アノード)とn2層につけた電極(カソード)の間にアノードが正の方向に電圧VAKを印加したとしよう。このとき接合J1とJ3は順バイアスされるが,接合J2は逆バイアスされるのでアノードからカソードに向けてはわずかの漏れ電流が流れるだけで,素子は電流を流さない状態(オフ状態)にある。この状態を二つのトランジスターの動作に対応させて考えてみると,漏れ電流はトランジスターQ1のコレクター・ベース間とQ2のコレクター・エミッター間を通って流れるが,その一部はQ2のベース→Q1のエミッター→Q2のコレクターというループでフィードバックされ増幅される。VAKを大きくしていくにつれ漏れ電流が増加し,それに伴ってこのループの利得も大きくなる。VAKがVBO(ブレークオーバー電圧)に達すると,ループの増幅度が非常に大きくなってアノードから流れ込む電流が急激に増加し,素子は低抵抗で電流を流す状態(オン状態)に移行する。この現象をターンオンという。言い換えればVAKによって接合J2がなだれ崩壊に至っている。このループの電流はp2層に設けられた第3の電極(ゲート)から電流を注入することによっても増加できる。したがってゲート電流IGを流した状態ではVBOは低下して低いVAKの値でオン状態に移行する。逆にVAKを負電圧にすればJ1J3接合が逆バイアスされるので素子は電流を流さない(逆阻止状態)。このことを図3のVAKとIAの関係にまとめる。VAKを増加させていくと点Aのブレークオーバー電圧までは電流はわずかしか流れず素子はオフ状態にある。A点に達するときわめて短時間(数μs)でB点に移行して,素子は低抵抗で電流を流すオン状態に移る。さらに外部回路で電流を増すと,その特性はG点に向かって通常のダイオードと同じようにわずかにアノード・カソード間に現れる電圧を増す。逆に電流を減少してC点に達すると素子はオフ状態に戻る。この現象をターンオフという。C点の電流の値IHを保持電流という。ゲート電流が流れている場合にはより低い電圧でターンオフを生ずる。VAKを負にした場合の特性はダイオードと等しい。
サイリスターは図4の回路記号で表す。サイリスターはゲート電流で動作するスイッチとして働く。例えば図5の回路でパルス状のゲート電流を電圧に対して位相φで与えると,サイリスターはターンオンして抵抗Rに図のような電流を流す。φの大きさを変えれば電流の平均値が変わるのがすぐわかるであろう。しかもigの値は主回路電流i(t)の値に対して1/1000以下でよく,しかもパルス状でパワーが少ないからきわめて利得の大きい増幅器,あるいは制御器として用いられる。
サイリスターの構造をさらに複雑にしたり,その特性を特定の目的に役だつようにしたいくつかの種類がある。トライアックは二つのサイリスターを逆向きに並列接合したものを一つの半導体として作成したもので,交流の制御に使われる。逆導通サイリスターはサイリスターとダイオードを逆並列接続したものを一つの半導体として作成したもので高速の動作ができる。ターンオフサイリスター(GTOサイリスター)はゲートから逆に電流を引き出すことによってオン状態からオフ状態への移行もゲート信号で行うように作られた素子である。光サイリスターは高電圧回路で使った場合のゲート回路の絶縁の問題を除くためにゲート電流の代りに光で直接J2接合にキャリアを注入してターンオンするように作られた素子である。
執筆者:正田 英介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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シリコン制御整流器(silicon controlled rectifier,SCR)ともよばれ,pnpnの4層構造をもつ半導体素子である.アノード,カソード,ゲートの3端子をもち,ゲートへのパルス信号によってアノード-カソード間の電流を制御する.サイリスターはパルスによってその通電状態を制御する大電流容量のダイオードと考えられる.いったん通電すると,アノードを逆方向にバイアスしないかぎりスイッチを切れない欠点はあるが,電球の調光,恒温槽や電気炉の温度調整,モーターの回転数制御など用途は広い.サージ電流(流しうる電流の最大値)は数 A~104 A 以上の広い範囲にわたる.また,サイリスターの電流は一方向であるが,双方向性の素子(トライアック)もある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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