スイスの歴史家、経済学者。シモンドが本来の姓、ドゥ・シスモンディは筆名。ジュネーブの富裕な牧師の家に生まれたが、父の破産のためリヨンに商業見習いに出たり、フランス革命の余波を受けて一家でイギリスに逃れたりしたあと、イタリアのトスカナ(ペシャ)に移って農業経営に従事した(1794~1800)。この間の経験と考察をまとめた『トスカナ農業の概観』Tableau de l'agriculture de la Toscane(1801)で世に認められ、以後ジュネーブに戻って歴史と経済学の研究と著述の生活に入り、スタール夫人との交友を通じて文芸上のロマン主義運動にも参加した。当時はむしろ『中世イタリア諸共和国史』Histoire des républiques italiennes au moyen âge全16巻(1807~18)の著者、歴史家として著名であったが、今日では経済学者としてのほうが有名である。その経済学上の最初の著書『商業的富について』De la richesse commerciale, ou Principes d'économie politique appliqués à la législation du commerce(1803)では、スミスの経済学を解説し、その自由主義原理にたってナポレオンの保護政策を批判したが、1815年のナポレオンの失脚後のウィーン体制によるヨーロッパの政治的反動のなかで、またイギリスの産業革命の諸弊害、ことに増大する生産力のもとでの大衆の窮乏化を前にして、主著『経済学新原理』Les nouveaux principes d'économie politique, ou De la richesse dans ses rapports avec la population全2巻(1819)では、恐慌を初めて資本主義体制に根ざす基本的矛盾の必然的な現れとしてとらえ、これを消費を超える生産の過剰、いわゆる「過少消費」説で説明して、資本主義の批判者となった。彼はこれによって古典派経済学の最後の人で最初の批判者とされるが、一方で対策として、政府の干渉によって資本家的自由競争を抑制し、同業組合や家父長的農耕の秩序のもとでの調和や連帯を求めることを唱えたため、「小ブルジョア社会主義」あるいは「経済学的ロマン主義」の代表とされる。
[津田内匠]
『菅間正朔訳『経済学新原理』全2巻(1949、50・日本評論社)』▽『吉田静一著『異端の経済学者シスモンディ』(1974・新評論)』▽『吉田静一著『フランス古典経済学研究』(1982・有斐閣)』
スイスの経済学者,歴史家。シモンド・ドゥ・シスモンディが姓であるが,ふつうはシスモンディとよばれる。経済学史上,古典派とロマン派の境界に位置する。ジュネーブの上流階級に属する新教徒牧師の家に生まれたが,フランス革命の政治的・経済的衝撃によって地位と財産を失った一家は,一時イギリスに,ついでイタリアに亡命し,トスカナのペッシャに定住する。しかし,シスモンディの政治家,思想家としての活動の場所は,革命後のジュネーブとパリであり,死んだのはジュネーブ近郊であった。経済学においては,彼はアダム・スミスの信奉者として出発するが,ヨーロッパ各国で恐慌のなかにある労働者の窮乏をみたり,イギリスでロバート・オーエンに会ってその影響をうけたりして,主著《経済学新原理》2巻(1819)では資本主義批判に転じた。彼の対策は,独立小生産者の社会の再建であったので,小市民的あるいはロマン主義的反動とよばれることがあるが,最初のリカード派社会主義者という評価もある。ほかに,《中世イタリア諸共和国史》16巻(1807-18),《フランス史》31巻(1821-44)など著書多数。
執筆者:水田 洋
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…セーは,この販路説にもとづいて全般的過剰生産は起こりえないと主張し,ただ企業家の誤算や国家の干渉のような偶然的・政治的原因によって部分的に過剰生産が起こりうることだけを認めた。実際,ナポレオン戦争後の恐慌(1817‐19)の際,J.C.シスモンディやT.R.マルサスが全般的過剰生産が起こりうることを認め,いわゆる過少消費説(〈恐慌〉の項参照)を主張したのに対し,セーは上述の理解から,ただ生産部門間の不均衡による部分的過剰生産を認めただけで全般的過剰生産を否定し,前2者とのあいだに〈市場論争〉と呼ばれる論争を展開した。この論争にはD.リカードやJ.ミルも参加し,全般的過剰生産を否定するセーの見解に賛意を表した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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