イギリスの小説家A.C.ドイルが長編小説《緋色の研究》(1887)で初めて登場させた素人探偵で,この物語の語り手ジョン・H.ワトソン医師と共同で,ロンドンのベーカー街の下宿に住み,一般人が持ち込むなぞの事件や,警察が解決できなくて頼みに来る難事件を,明快な推理と機敏な行動力によって解決する。このホームズ探偵とワトソン医師の名コンビは,次の長編小説《四つの署名》(1890)でも登場するが,まだ評判は高まらなかった。しかし,《ストランド・マガジン》に1891年7月号から連載された一連の短編小説は爆発的人気を呼び,ホームズの名は一躍有名になった。12の短編を集めた《シャーロック・ホームズの冒険》(1892)以後,《シャーロック・ホームズの思い出》(1894),《シャーロック・ホームズの生還》(1905),《最後のあいさつ》(1917),《シャーロック・ホームズの事件簿》(1927)まで,合計五つの短編集と,前記2編に加えて《バスカビル家の犬》(1902),《恐怖の谷》(1915)の合計四つの長編が発表された。
作者の死後もホームズの人気は高まる一方で,彼を実在,現存の人物と信ずるファンは世界中にいて,各地でクラブを組織している。彼らはホームズ物語を〈聖典〉と呼び,その緻密な研究,ホームズの伝記研究など,さまざまな活動を行う。日本でもこうした熱心家が第2次世界大戦後増え,1977年には日本シャーロック・ホームズクラブを設立。
執筆者:小池 滋
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イギリスの作家コナン・ドイルの創作した世界的名探偵で、名探偵の代名詞的存在である。1887年に『緋色(ひいろ)の研究』で初登場。抜群の推理力の持ち主であるうえに解剖学、化学、数学、法律にも詳しいが、通俗文学の知識は範囲が限られ、天文学、政治学、哲学には精通していない。細い鉤(かぎ)鼻、鋭いまなざしをもつ顔は鷹(たか)のようで、身の丈6フィート強の痩身(そうしん)。拳闘(けんとう)、フェンシング、棒術に優れている。思索するときはバイオリンをかき鳴らし、安煙草(たばこ)と臭い化学実験のにおいをまき散らし、うつ状態になると1日中口をきかず、コカインをときにたしなむ弱みをもつ。ホームズの助手でもあり彼の活動の記述者でもあるワトソン医師Dr. Watsonは友情に厚い心温かな男で、美人に対してつねに賛美を惜しまない。
作者ドイルは、ホームズと決別しようと、24編目の短編において大悪人モリアーティ教授ともども滝つぼに落ちて死んだことにしたが、読者の要望に抗しがたく『シャーロック・ホームズの帰還』(1905)で復活させている。ホームズの居所であるロンドンのベーカー街221B(実在しない)には、いまでもホームズあての手紙が舞い込むという。ホームズの研究家やファンはシャーロッキアンSherlockianといわれ、世界各国に多数を数える。
[梶 龍雄]
『小池滋監訳『シャーロック・ホームズ全集』全21巻(1982~83・東京図書)』▽『日本シャーロック・ホームズ・クラブ編『シャーロック・ホームズ雑学百科』(1983・東京図書)』
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…人間味豊かな警官の推理作業をとり入れている点も,ポーと違った特徴である。 以上のような土壌の上に,コナン・ドイルの〈シャーロック・ホームズ〉シリーズの花が開くこととなる。この名素人探偵が初登場するのは長編《緋色の研究》(1887)だが,形式的にはポーのデュパンと同じであり,またポーのアイデアをドイルはかなり借用している。…
…広い意味では,まさしくこのような世紀末型の人間類型の登場を,T.マンが一族の没落の歴史《ブデンブローク家の人々》(1901)をかりて詳細に跡づけ,S.フロイトが《夢判断》(1900)で精神分析を通じて診断したといえるだろう。この点,同じ時代がドイルの〈シャーロック・ホームズ・シリーズ〉に代表される推理小説という文学ジャンルを,またスティーブンソンの《宝島》(1883)などの冒険小説を生み出したのも無関係ではない。いずれも知性の人工楽園にとじこもるためにうってつけの文学であり,人工的な刺激を求める都市人間の求めに応じたものである。…
…スコットランドに生まれ,エジンバラ大学で医学を修める。医師として開業したが成功せず,余暇をもてあまして書いた,素人探偵シャーロック・ホームズを主人公とする一連の小説でしだいに人気を得,医者を廃業して小説家を職業とする。シャーロック・ホームズが登場する推理小説ばかりが評判になって,自分が本当に書きたい歴史小説が高く評価されないことに不満を抱き,一時自分の筆でホームズを殺してしまったが,一般読者の強い要望で彼を復活させた。…
※「シャーロックホームズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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