クラブ(読み)くらぶ(英語表記)club

翻訳|club

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラブ」の意味・わかりやすい解説

クラブ
くらぶ
club

結社の一形態。広義には、なんらかの共通の目的・関心を満たすために、一定の約束のもとに、基本的には平等な資格で、自発的に加入した成員によって運営される、生計を目的としない、パートタイムの機能集団のことである。クラブということば自体はクリーブcleave(執着する、団結する)という英語に由来する。ドイツ語のクラブに相当する語は同業組合ギルド、宴会などを意味するツェッヘZecheであり、本来の意味は共飲共食のことであった。日本では「倶楽部」の字をあてた。

[綾部恒雄]

人類学からみたクラブ

クラブということばはイギリス起源であるが、同種の機能集団は人類史上古く、いわゆる未開社会においても、その存在がよく知られている。未開社会のクラブは、地域や種族によって、構造や機能、儀礼や目的が多様であり、秘密結社の形をとっているものも多い。一般に部族社会では、クラブの成員であることは高い社会的地位を意味しており、ナイジェリアのベニン人の王宮結社や、イボ人の「肩書のある首長」の会であるオゾ結社などは典型的なエリートのみのクラブである。ニューギニアのエレア人のハリフ結社やナイジェリアのヨルバ人のオグボニ結社は、政治的機能をもつクラブといえる。シエラレオネからリベリアにかけて住むメンデ人には女性によるクラブがあり、リベリアのクペル人にみられるポロ結社などは、少年を教育する目的をもったクラブである。イギリスの植民地政策に反対して闘ったケニアのキクユ人のマウマウ団は、革命的秘密クラブであった。ミクロネシアやアフリカの一部には、共食や演劇やレクリエーションを目的としたクラブも多い。

[綾部恒雄]

欧米などにおけるクラブ

クラブは古代ギリシア・ローマ時代には宗教的な組織の一部で、ともに食事をしながら政治や商業のことなどを話し合う場所の意味であった。イギリスでは16世紀ごろから宗教的な活動をするクラブがつくられ、のちに目的が多岐になっていったが、多くは上流社会の社交クラブで、階層別・職業別につくられた親睦(しんぼく)団体であった。17世紀初頭にコーヒーがトルコから輪入され、コーヒーハウスやターバン(宿屋)でクラブの集会が行われるようになった。職業的なものとは別の、趣味文学・芸術などの愛好団体が生まれてくるのは17世紀後半から18世紀前半で、ヨットボートクリケットなどをはじめスポーツのクラブもほぼこの時代に形成され始めた。登山を目的とするアルパイン・クラブの成立は比較的遅く、1857年のことである。婦人をおもなメンバーとする婦人問題や趣味のクラブが形成されたのは18世紀末であった。地域にはそれぞれルーラル・クラブがつくられ、地域の人々のコミュニティの中心として憩いの場となっていた。イギリスにおけるこのようなクラブの発達は、自治を重んじる民主主義形成の母胎であった。クラブの自治の要素が極度に発達したものとしてイギリスのジョッキー・クラブがあげられ、競馬に関して法律の範囲内での準司法的権能をもつに至っている。

 アメリカでは20世紀に入って郊外でスポーツを楽しむためのカントリー・クラブがゴルフを中心に発達した。このようなクラブの運営は会員の醵出(きょしゅつ)金や寄付金によって行われ、営業行為は行わない。役員も会員のなかから選出される。クラブライフはクラブハウスを中心に行われ、クラブハウスは集会に必要な各施設、飲食、娯楽、宿泊施設も設けられているものが多い。イギリスやアメリカのいわゆる名門大学においても学生のクラブが古くからあるが、依然として社会の階層を反映した構成が崩れたとはいえない。1902年プリンストン大学学長となったウッドロー・ウィルソンは閉鎖的な学生クラブを大学改革のおもな対象としたが、理事などの猛反対で失敗したことは有名である。ドイツの学生組合(ブルシェンシャフト)も時代により多様な性格をもつが、学生のクラブといってもよい。

 中国では明(みん)代以降、同郷・同業をはじめ多くのグループが活動の本拠として会館をもっている。会館にはさまざまな形態があるが、仲間相互の便宜や互助を図ることは共通している。

[徳久球雄]

日本のクラブ

日本においてはこのような個人の自主的行動によるクラブの形成は歴史が浅く、明治初期に欧米の模倣をして一部上流階級の社交場が存在し、だんだん趣味やスポーツの団体として発達した。しかし本来の民主主義の母胎としての個人の自由な意見の表現や奉仕の団体としての発達は少なく、主としてスポーツや趣味の同好会としての意義に定着し、また飲食の場としてのみの場所や社交場の意味に用いられている場合が多く、欧米とは異なった形のクラブが発達しているといえよう。

[徳久球雄]

『小林章夫著『クラブ』(1985・駸々堂)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラブ」の意味・わかりやすい解説

クラブ[古代ギリシア・ローマ]
クラブ[こだいギリシア・ローマ]

古代の人々が共通の目的追求のために,自発的にしかも一時的にではなく,半永久的に組織した団体。ギリシア,ヘレニズム世界,ローマに数多く存在した。 (1) ギリシア 前6世紀のソロンの法にすでに言及があり,前5世紀には政治団体があったことが知られる。古典期には宗教的なものがほとんどで,英雄やしばしば非公認の神々の礼拝や加入者の葬儀を行なった。民主政終息後は数もふえ,宗教的な名称機能をもちながら,社会的・経済的要素を有する団体が多くなった。特に通商の要地,デロス,ロードス,エジプト,小アジアの都市に多く,さまざまな階層 (男女,自由人,奴隷,外国人) を宗教的,社会的に結びつける役割を果した。これらおもなものには,ディオニュソス祭儀と結びついたアッチカ,テーベ,デロス島の商人の団体などがあり,またあらゆる職種の団体もあって,親睦,娯楽をその目的とした。 (2) ローマ 古くからコレギウムと呼ばれる神官の団体があり,ほかのものも主として宗教祭儀と結びつき,神や祭礼の名を冠した。神殿で会合し,団体の館 scholaにも神名を付した。共和政末期には政治的な結社が多くなり,内乱に巻込まれたためユリウス・カエサルはこれらを抑圧。皇帝アウグスツスは団体の結成を皇帝か元老院の承認によることとし,以後は比較的国家の干渉はなくなり,おもに埋葬や社会事業,スポーツ,親睦を目的とするものが多くなった。同職団体が多く,特定の日に会合し,保護者の援助を得,基金や,世話役,会計係などをも有した。また貧民も参加することができたし,老人クラブなどもあった。

クラブ
club

娯楽,レクリエーションなどを目的として結成される人為的社会集団。集団類型的には機能的集団の一つ。しかし,集団としての統制が弱く開放的で,集団意識が薄い。アメリカの社会などではクラブがよく発達しており,一部は政治クラブの形で拡大し,圧力団体になることもある。

クラブ[古代ギリシャ・ローマ]
クラブ[こだいギリシャ・ローマ]

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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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