デジタル大辞泉
「探偵小説」の意味・読み・例文・類語
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たんてい‐しょうせつ‥セウセツ【探偵小説】
- 〘 名詞 〙 ある犯罪や事件を設定し、主人公の探偵の思考や推理、行動によって、犯人または事件の真相などを探りあてる興味を主眼とした小説。たとえばコナン=ドイルの「シャーロック=ホームズの冒険」など。推理小説。
- [初出の実例]「奇異を旨とする探偵小説にあらざれば以て慰藉を与ふることなし」(出典:漫罵(1893)〈北村透谷〉)
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知恵蔵
「探偵小説」の解説
探偵小説
謎の提示から解明に至る過程を書き記したものが探偵小説であるとすれば、その起源は遠くギリシャ時代に、ソフォクレスの悲劇『オイディプス王』あたりまでさかのぼる。謎解き役としての探偵が登場してくる近代探偵小説は、19世紀前半、アメリカのエドガー・アラン・ポーの探偵デュパンを主人公とする短編3編、『モルグ街の殺人』(1841年)、『マリー・ロジェの謎』(1842年)、『盗まれた手紙』(1845年)によって定礎された。なかでも、デュパンのデビュー作『モルグ街の殺人』には、天才的な探偵の行状をむしろ平均的な知性の持ち主である語り手が報告するという語りの構造(この構造は、ホームズとワトソンのコンビとして、コナン・ドイルにより継承、発展される)、怪奇で残虐な犯罪、徹底して合理的・演繹的な謎解きのプロセス、密室殺人事件、意外な犯人像、安楽椅子探偵(armchair detective=駆けずり回ることなく、収集した情報を分析して犯人を言い当てる探偵)の構図など、探偵小説ジャンルの構成要件がかなりの程度まで出揃っている。ポーには他に、探偵デュパンは登場しないが、暗号解読をモチーフとした『黄金虫』(1843年)と探偵イコール犯人ものの『お前が犯人だ』(1844年)の2編があり、探偵小説の可能性はポーによってあらかた究め尽くされていたのが見て取れる。ポーの流れを汲む近代探偵小説は、コナン・ドイルのホームズもの、G.K.チェスタトンのブラウン神父ものを経て、1920年代に至って黄金時代を迎え、アガサ・クリスティ、ドロシー・セイヤーズ、ジョン・ディクスン・カー、S.S.ヴァン・ダイン、エラリー・クィーンなど、才能ある本格的探偵小説の書き手を輩出する。この時期に黄金時代を迎えた理由としては、(1)テクノロジーの発達(電信・電話、自動車など)、植民地主義の進展(その結果、人と物の流れが一変した)によって、時間・空間の仕組みが多元化、不均一化したこと、(2)大都市及びその周辺部という、探偵小説を育むにふさわしい新たなトポス(場所)が成立したこと、(3)第1次世界大戦が現出させた無意味な死体の山から名前ある固有の死を奪還せんとする衝動(笠井潔『探偵小説論』、1998年)、などがあげられる。探偵小説においては、(1)語り手による時系列通りに進行していく語り、(2)殺人があった時点から犯行時まで遡り犯人を特定せんとする探偵の思考、(3)そうして突きとめた犯人がいかにして犯罪を遂行したかを、聞き手や読者に向かって説明する探偵の語り、など複数の語りの線が錯綜する。現代小説がその目指す効果を実現するために、しばしば探偵小説の結構を借用するのは、探偵小説が本性上、そうした複線的語りの構造を持つジャンルだからである。ポーを始祖とする本格的探偵小説は、明治中期、日本に翻訳紹介され、以後、翻訳探偵小説は新聞や雑誌の売り物となっていく。しかし、国産の本格探偵小説の成立は、江戸川乱歩のポー『黄金虫』の影響を物語る『二銭銅貨』(1923年)と探偵明智小五郎の登場する『D坂の殺人事件』(1925年)を待たねばならなかった。
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探偵小説
たんていしょうせつ
detective story
海外推理小説の翻訳紹介が始まった明治20年代から使われてきたが、第二次世界大戦後の1946年(昭和21)当用漢字表から「偵」の字が外されたことと、木々高太郎(きぎたかたろう)の提唱が相まって、推理小説という名称が使われ始め、昭和30年代には一般に定着した。探偵小説ということばは現在、懐古的な意味で使われることが多い。
[厚木 淳]
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世界大百科事典(旧版)内の探偵小説の言及
【推理小説】より
…〈なぞを論理によって解明する操作をおもな筋とする小説〉というのが,穏当な定義であろうが,今日の現実を眺めると,これでは十分に包括しつくしているとはいえない。さらに〈推理小説〉という語自体,その意味するものが昔と現在では違っているし,この語と他の類似の語,例えば〈探偵小説〉〈ミステリー小説〉〈犯罪小説〉との関係も,時代によって変わってきた。そこで,まずこれらの用語と並行させつつ,〈推理小説〉の定義に新たに取り組むこととしよう。…
※「探偵小説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」