隠された事実を調べること、またそれをする人。職業としてそれを行い、警察関係でない者をいうことが多い。探偵の始まりは、イギリスの小説家でもあり治安判事でもあったヘンリー・フィールディングが1748年にロンドンのボウストリートにつくったものだといわれるが、これは国家組織を土台にしたものであるから、現在いう探偵とは趣(おもむき)を異にしている。民間の捜査機関としての探偵の最初は、1833年にフランスのフランソア・ビドックFrançois Vidocq(1775―1857)が創設した探偵局である。彼はしたたかな犯罪人でもあったが、実はその知識と顔で社会の暗黒面の捜査にたけていただけであり、探偵を誇りある一つの職業にした真の探偵の創始者は、アメリカのアラン・ピンカートンAllan Pinkerton(1819―1894)である。アメリカの秘密諜報(ちょうほう)機関の長官だった彼は、1850年に私立探偵局をつくり、その手堅く、敏速で、大衆的な仕事ぶりにより、たちまちのうちに名声を得た。その事務所のマークに、眉(まゆ)つきの人間の目の部分を使ったことから、以後それは私立探偵の象徴となり、アメリカでは私立探偵のことをthe private eyeとよぶことも多い。
日本では江戸時代の同心(どうしん)、岡引(おかっぴ)きが探偵方といわれたことから、明治になっても巡査、刑事が探偵とよばれていたが、明治20年代に私立探偵が現れるに及んで、しだいに警察関係は探偵とよばれなくなった。日本での私立探偵は、1895年(明治28)岩井三郎が東京・京橋に事務所を開いたのが始まりといわれる。しかし国情の違いもあって、アメリカの探偵のようなピストル携行権もなく、またホテル探偵やビル探偵のように限られた区域内での捜査権といったものもないので、その活動範囲は狭い。財政調査、信用調査、素行調査などの、興信所所員を探偵といっていることが多く、探偵小説のなかの探偵のような活動はほとんどみられない。なお明治以来、スパイのことを軍事探偵ともいっていたが、現在はあまり使われない。
[梶 龍雄]
『W・ゲルタイス著、前川道介訳『名探偵は死なず』(1962・弘文堂)』
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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