ジャンケレビチ(読み)じゃんけれびち(その他表記)Vladimir Jankélévitch

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャンケレビチ」の意味・わかりやすい解説

ジャンケレビチ
じゃんけれびち
Vladimir Jankélévitch
(1903―1985)

フランス哲学者、音楽学者。ブールジュでユダヤ系ロシア人を両親として生まれ、高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)卒業。その研究をベルクソンで開始したが、シェリング研究で学位を得る。第二次世界大戦中はレジスタンス運動に参加、終戦後トゥールーズ大学やリヨン大学を経て、パリ大学でル・センヌRené Le Senne(1882―1954)の後を継いで倫理学を講じた。その間多くの著作があるが、彼のとる方法は現象学を基盤とする「非連続的弁証法」といえ、ヘーゲルのものに比べ、瞬間性と直観による飛躍を積極的に評価しようとする特色をもつ。その思想は、ベルクソン、シェリングをはじめとして、ジンメルパスカルキルケゴールなどの影響を受けているが、基本的にはユダヤ神秘主義を背景にもつ有神論的実存主義であり、その意味で彼自身の言及は少ないものの、ハイデッガーマルセルの思想との関係が注目されるべきである。

 なお、彼のドビュッシーやラベルなどについての音楽論は、バシュラールの物質的想像力の具体的展開でもあり、音楽解釈学上豊かな可能性をもっている。

[戸澤義夫 2015年5月19日]

『ウラディミール・ジャンケレヴィッチ著、久米博訳『イロニーの精神』(1975・紀伊國屋書店/ちくま学芸文庫)』『V.ジャンケレヴィッチ著、仲沢紀雄訳『死』(1978・みすず書房)』『V.ジャンケレヴィッチ著、仲沢紀雄訳『仕事と日々・夢想と夜々――哲学的対話』(1982・みすず書房)』『ウラディミール・ジャンケレヴィッチ著、福田達男訳『ラヴェル』(『永遠の音楽家13』所収・1970・白水社)』『戸澤義夫著「ジャンケレヴィッチの『夜想』と想像力」(『藝術と想像力』所収・1982・東京大学出版会)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ジャンケレビチ」の意味・わかりやすい解説

ジャンケレビチ
Vladimir Jankélévitch
生没年:1903-

フランスの哲学者,元パリ大学教授。ベルグソン,シェリング,プロティノスらの影響下に,ハイデッガーと同じく存在の本質ならぬ存在の生起に想いを深め,〈何やらわからぬje-ne-sais-quoi〉その原事態性quodditéを無でも存在でもなく,無から存在への〈殆無presque-rien〉としてとらえ,時間におけるその発顕に善や美の〈創造〉をみた。音楽学者としても著名主著《第一哲学》(1953),《不可知と殆無》(1957),《死》(1966),《徳論》(1968-73)等。
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百科事典マイペディア 「ジャンケレビチ」の意味・わかりやすい解説

ジャンケレビチ

フランスの哲学者,音楽美学者。パリ大学教授。存在の生起を〈殆無〉ととらえ,時間性のうちでのその開顕に美や善の創造を見る哲学には,ベルグソンの影響が濃厚。主著に《第一哲学》(1953年),《不可知と殆無》(1957年),《死》(1966年)ほかがあり,ドビュッシー,フォーレ,ショパン論も有名。

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世界大百科事典(旧版)内のジャンケレビチの言及

【ペレアスとメリザンド】より

…ドビュッシーは,R.ワーグナーから影響を受けたライトモティーフの技法を用いながらも,全音音階や平行和音,小節線から自由になったリズム法など新しい作曲法を導入し,メーテルリンクの原作よりもいっそう深い意味をもった作品を作り上げた。哲学者兼音楽美学者のジャンケレビチは,この作品の中心命題は,人間の〈生と死の神秘〉であると論じている。【船山 隆】。…

※「ジャンケレビチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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