スワップswapとは本来〈物々交換〉を意味する英語であるが,民間の外国為替取引においては為替リスクを避け,かつ金利差を利用し有利な資金調達を図るために,売買が逆方向で金額の等しい直物(じきもの)為替と先物為替を抱き合わせて行う取引の意味(スワップ取引ともいう)である。
これに対しスワップ協定は中央銀行間のスワップに関する協定である。通貨当局は自国通貨の為替相場が急激に下落するような場合,為替市場に強い通貨を売却して市場に介入する。売却すべき通貨を十分保有していれば問題はないが,これが不足する場合,IMFからの借入れや外債発行,銀行借入れの方法もあるが,これらの方法では条件交渉等に手間取り急場に間に合わない。このような緊急の場合のため,ある国の中央銀行と他の国の中央銀行とが必要とする外貨をいつでも借り受ける方法として,一定限度額内においてスワップを行うという約束をあらかじめ締結するのがスワップ協定である。1962年アメリカのニューヨーク連邦準備銀行が中心となった,イギリス,フランス,西ドイツ,日本などの主要国との間の双務協定が最初である。仕組みはニューヨークにある相手国の勘定にドルを貸記し,相手国にあるアメリカの勘定に同額の相手国の通貨を貸記し,為替市場に介入の必要があれば必要通貨を使用する。使用した通貨は原則として3ヵ月後に元に戻すという契約だが,1回程度は更新できるとされている。スワップ協定の典型例としては,1964年のポンド支援の総額30億ドルの〈バーゼル協定〉があるが,73年に変動相場制になってからも拡大され,EMS(ヨーロッパ通貨制度)の基盤となった。
これ以外に特記すべき例としては,77年11月のカーター大統領のドル防衛措置の一環としてのスワップ枠の巨額な増額,79年5月の日本銀行が円安対策としてニューヨーク連銀以外の西ドイツの連邦銀行およびスイスの中央銀行ともスワップ取決めを拡大した例がある。
執筆者:鈴木 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
二か国の中央銀行が一定額の自国通貨を一定期間相互に預け合うことを取り決めた協定。取得した相手国通貨は主として為替(かわせ)安定資金に使用される。多くは3か月ないし6か月の短期協定であるが、双方の合意があれば更新できる。相手国通貨をもつことに伴う為替リスクを回避するため、返済は預け合ったときの為替相場によって行われる。
スワップ協定は、1959年にアメリカの連邦準備制度が旧西ドイツの中央銀行(ブンデスバンク)との間で締結したのが最初であるが、その後アメリカの連邦準備制度はドル防衛のために協定網を拡大し、日本銀行も1963年(昭和38)に同制度と協定を結んだ。この協定は、もともと双務的な信用供与の方法なので、その後、各国の中央銀行間でも協定が結ばれ、国際収支危機を乗り切る手段として利用されている。なお、取得した相手国通貨は、為替操作に使用しない場合には財務省証券(TB)などに投資できる。
[土屋六郎]
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