日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソネット集」の意味・わかりやすい解説
ソネット集
そねっとしゅう
The Sonnets
イギリスの劇作家シェークスピアの詩集。一部は1599年に公刊されているが、全編が刊行されたのは1609年。154編のソネット(定型詩の代表的な詩型で14行詩ともいう)よりなる。最後の2編は全体の構成から外れており、作者についても疑問がある。詩人が敬愛する青年貴族を賛美し、早く結婚してその美質を子孫に伝えるよう勧めるのが全編の骨子であるが、そのなかに、青年貴族が詩人のライバル詩人に寵愛(ちょうあい)を移したことの嘆きや、詩人の愛する「黒婦人」を貴族が奪ったことに対する憤りや嫉妬(しっと)が含まれており、シェークスピアの自叙伝を読み取ろうとする批評家は多いが、具体的にはまったく不明である。1609年版は「唯一の生みの親……W・H」に捧(ささ)げられているが、それがだれであるかは諸説があって一致しない。創作年代についても異説が多く、シェークスピア全作品のなかでももっとも多くの謎(なぞ)に包まれた興味ある作品であるが、ソネット形式としては「イギリス形式」(4・4・4・2行)を用い、イギリス文学に現れた最高のソネット集をつくりあげている。
[小津次郎]
『吉田健一訳『十四行詩』(『世界名詩集大成9 イギリス篇』所収・1959・平凡社)』