改訂新版 世界大百科事典 「チューダー様式」の意味・わかりやすい解説
チューダー様式 (チューダーようしき)
Tudor style
イギリスの建築様式の一つ。1485年から1558年エリザベス1世の即位までを中心期とするチューダー朝の建築様式の名称で,イギリス・ゴシックの垂直様式を受け継ぐが,しだいに大陸各地とくにドイツ,イタリアから導入されたルネサンス様式と結合した形態に移行する。ヘンリー8世の治世(1509-47)には,華麗な垂直式のキングズ・カレッジ礼拝堂(1446-1515,ケンブリッジ)と,イギリス・ゴシックの記念碑ともいうべきウェストミンスター・アベーが完成した。しかし元来,国王は芸術に対してはきわめて関心が薄かったため,当時のイギリスの壮麗な建築は,おもに大貴族や富裕市民によって首都を離れた彼らの領地に建てられる結果となった。経済的繁栄に加えて大陸のルネサンスの気運が彼らの建築熱をあおり,大陸から芸術家を招来して,田園を背景とした居館の造営にあたらせた。その中でも異例の規模をもつものとして,ロンドン近郊テムズ川左岸のハンプトン・コートがある。イタリアの彫刻家ジュリオ・ダ・マイアーノの手になる豪奢なルネサンス装飾を施したこの館は,ルネサンス風室内装飾と,煉瓦積みの壁と煙突に表れたチューダー様式の混在を示している。また,ヘンリー8世の寵臣ウィリアム・コンプトンはウォリックに自邸を建てた(1480-1520)が,現在も見られるように,中庭のある構成,煉瓦積みの壁,非相称な建物の配置や煙突に,チューダー朝の典型を示し,その絵画的な効果は次のエリザベス朝時代の田園の住宅形式として受け継がれてゆく。
執筆者:友部 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報