エリザベス1世の治世(1558-1603)にイギリスの工芸・装飾にみられる様式。イギリスへのルネサンス様式の採り入れはヘンリー8世以来,H.ホルバイン(子)を宮廷画家として招き,肖像を描かせ,またイタリアから移住してきた彫刻・工芸職人たちの仕事などによって紹介されてきた。しかしイギリスでのゴシック様式への傾倒は強く,しばしば並存して用いられた。エリザベス朝における国力の増大と安定は,自信に満ちた重厚で豪華な家具・調度を生んだ。特に家具ではオーク材を主体にし,他の濃淡の色をもつ木材による寄木細工が施された。また,大きく腰の張ったファージンゲール・スカートの流行にともない,前を台形に広げた座部をもつ椅子がつくられた(カクトアール)。ベッドも天蓋付き四柱形式が確立し,ゴシックと,神話や空想の動物などルネサンス的なモティーフが入り混じった精巧な浮彫装飾が施された。家具の脚には捩(ねじ)り柱や,蓋付きカップcup-and-cover形あるいはメロン形と呼ばれる球状の装飾をつけたものが流行した。また,このころ特に銀器は高い水準に達し,浮彫,エングレービング,鍍金,貴石の象嵌などを駆使した華やかなものが作られた。デザインはドイツのゾリスVirgil Solis(1514-62)やフランドルのブロサマーHans Brosamer(1500ころ-54)らの銅版画によるデザイン図集の輸入に負うところが多い。形態にも工夫がこらされ,特に蓋付きカップと塩入れには,独創的なアイデアや,東方からの輸入品に想を得たものが多い。ガラス器や陶器では目ざましいものはなく,高級品はイタリアのベネチア・ガラスや,ドイツの炻器(せつき),中国やペルシアの陶器の輸入によった。
執筆者:友部 直
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エリザベス1世の治政時代(1558~1603)に流行したイギリスの建築様式。チューダー様式とジェームス1世様式との間に挟まれた過渡的様式。依然としてゴシックの垂直構造を基本とし、チューダー様式の小塔や窓の多い外観を踏襲しながらも、細部の装飾やシンメトリーの原理の行き渡ったファサード(正面)などにイタリアおよびフランスのルネサンス様式の影響を示している。教会建築よりもむしろ城館を主とする世俗建築の分野で発展した。代表例としては、ノーサンプトンシャーのバーグレー・ハウス(1560~80ころ)やダービーシャーのハードウィック・ホール(1591~97)などがあげられる。
[篠塚二三男]
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[ルネサンス,バロック,ロココ]
ヘンリー8世がアングリカン・チャーチを樹立し修道院解散(1536,39)を行ったため,それまでの宗教建築を支えてきた建築家のギルドは弱体化し,これ以後のイギリス建築は国王や貴族のための世俗建築(宮殿,邸館,別荘など)に重点が移動する。ルネサンス様式と後期ゴシック(垂直様式)の混交した16世紀前半の〈チューダー様式〉の後,エリザベス1世の時代(1558‐1603)には,イタリア風のシンメトリーも取り入れた〈エリザベス様式〉が行われた。17世紀に入るとI.ジョーンズがイギリス建築に新紀元を開く。…
※「エリザベス様式」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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