改訂新版 世界大百科事典 「ツルボ」の意味・わかりやすい解説
ツルボ
Scilla scilloides(Lindl.) Druce
路傍,土手などの人里近くの草地に生えるユリ科の多年草。8~9月の花期には紫色の花を密につけた穂状花序がよく目だつ。花茎は高さ20~40cm。無毛で葉はつかない。花被は6枚で長さ3~4mm,おしべは6本で花被と同長。子房は3室。蒴果(さくか)は倒卵形で長さ4~5mm。花後に出る根出葉は線形で長さ10~30cm,花時以外は目だたない。地下には鱗茎がある。日本全土に分布し,ウスリー,朝鮮半島,中国大陸,台湾にもある。鱗茎はデンプンを含み食用となる。また葉もゆでたり,いためたりして食用とされる。鱗茎による栄養繁殖を盛んに行い,農業上の雑草として被害を与えることがある。これは母球の周りに形成される多数の子球が耕耘(こううん)などにより分散されるためである。
染色体数のうえで8を基本数とする二倍体(2n=16)と9を基本数とする二倍体(2n=18)があり,この両者のゲノムが組み合わさった倍数体としていろいろな染色体数の系統が知られている。細胞遺伝学の研究材料として広く研究されているものの一つである。
ツルボ属Scilla(英名squill)は約100種を含む大きな属で,ヨーロッパ,アフリカ,アジアに分布する。日本は属としての分布の東端にあたり,ツルボ1種のみが知られている。ヨーロッパやアフリカの種のなかには花が美しく園芸植物として広く栽培されるものがあり,シラーと総称されている。
執筆者:矢原 徹一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報