トラヤヌス(読み)とらやぬす(英語表記)Marcus Ulpius Trai(j)anus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トラヤヌス」の意味・わかりやすい解説

トラヤヌス
Traianus, Marcus Ulpius

[生]53. イタリカ
[没]117.8.8/9. キリキア
ローマ皇帝 (在位 98~117) 。五賢帝の一人。ヒスパニアの出身。 88~89年ライン地方のサツルニヌスの乱を討ってドミチアヌス帝に認められ,次帝ネルウァの登位後,上ゲルマニア総督となり,97年ローマに近衛兵の反乱が起ったとき,ネルウァの養子としてその後継者となった。即位後は穏健な政治を行い,元老院を尊重,政策を諮問し,自身国家のしもべとして人民にも寛大であろうとした。ローマに大建築物を造営,競技を開催し,荒地開拓,港湾建設を行なった。キリスト教徒に対しては過度の弾圧を禁じた。元老院は彼にオプチムス (最良者) の称号を与えたが 114年まで固辞し続けた。対外政策も積極的で,ダキア属州としアラビアパルティア,ドナウを征討し,ブリタニアから黒海にいたる北部国境を安定させ,ローマ帝国の最大版図を現出させた。 113~117年パルティアを討ち,アルメニア,北メソポタミアを属州とし,パルティアの主都クテシフォンを陥れチグリス川を下ってペルシア湾に達したが,征服したばかりのパルティアなどの反乱およびキレナイカからエジプト,さらにキプロスアジアまで広がったユダヤ人の大反乱にあった。一時は戦線を回復したものの重病にかかり,東方地域の管理をハドリアヌスにゆだねた。ローマへの帰途陣没した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トラヤヌス」の意味・わかりやすい解説

トラヤヌス
とらやぬす
Marcus Ulpius Trai(j)anus
(53―117)

ローマ皇帝(在位98~117)。五賢帝の二番目。スペインの都市イタリカの貴族層の家に生まれる。執政官、上ゲルマニア知事などを歴任、97年ネルウァ帝の養子とされ、翌年同帝が死ぬと、属州出身者として初めて皇帝となる。大規模な遠征を何度か行い、アラビア・ペトラエア、ダキア、アルメニア、メソポタミアなどを併合し、彼の時代にローマ帝国の領土は最大となった。内政面では、住民の負担を軽減するとともに、ローマ市の市民への多額の贈与や、イタリア諸都市の貧民の子弟扶養のために基金の贈与などを行い、またローマ市内や属州で多くの土木工事を起こすなど、社会政策に意を用いた。統治にあたっては、あからさまな専制政治を避け、「至高の元首」という称号を受けたが、実際には皇帝への権力集中が進んだ。117年対パルティア遠征からの帰途、小アジアのセリヌスで死亡した。

[坂口 明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android