改訂新版 世界大百科事典 の解説
ディオニュシウス・アレオパギタ
Dionysius Areopagita
《使徒行伝》(17:34)にみられるパウロによりキリスト教に回心したアテナイの〈至高法院〉の議員。ギリシア語ではディオニュシオス・ホ・アレオパギテスDionysios ho Areopagitēs。伝説上,後にその地もしくはパリの司教となったといわれ,使徒と同列視された。彼は1457年バラ,1504年エラスムスが信憑性に疑義を呈するまで,中世全般を通していわゆる《ディオニュシウス文書》の著者と目されていた。これは,キリスト教教義の,新プラトン主義ことにプロクロスを主とするアテナイ派の体系の援用による再解釈を内容とする,《神名論》《神秘神学論》《天上階序論》《教会階序論》,ならびに超越神を近づきがたい光と闇になぞらえたり,聖書を象徴として論及した10の書簡からなるギリシア語の著作である。この文書が最初に言及されてくるのは,6世紀初頭,キリスト単性論者たちによってである。思想的には,宇宙を神-天使(可知界)-地上界の三位に階層化し,被造世界を神の自己顕現ととらえ,神の認識は,神が言表を超え不可認識なるものであることを知ることにおいて達成され,そこにおいて神との合一がなされると主張する。同文書は,6世紀,ヨハネス・スキュトポリス,7世紀,マクシムス・コンフェッソル,9世紀エリウゲナにより注解やラテン語訳が試みられ,ことに13世紀,トマス・アクイナスにより重用された。また,《天上階序論》にみられる〈セラピム〉を頂点におく,諸天使の三位群からなる集成と階層化とは,天使論の基礎となった。
執筆者:野町 啓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報