古代ローマ末期、ギリシアの新プラトン学派の哲学者。リキアのクサントスの人。アテネのプルタルコスの弟子で、アカデメイアの学頭。プロティノスの体系を、いっそう細密化し図式化して体系化することによって、古代多神教に哲学的な基礎づけを与えた。プラトン著作への注釈、ユークリッド『原理』への注釈のほか、『プラトンの神学』『神学綱要』などの著作が残る。ディオニシウス・アレオパギタへの影響、および彼の『神学綱要』に基づいてつくられた『原因論』Liber de causisを通じて、中世のキリスト教神学体系の構成に大きな影響を及ぼした。
[加藤信朗 2015年1月20日]
アテナイで活躍したギリシア哲学者。コンスタンティノープルの生れ。キリスト教の感化力が強まる時代の中で,あくまでギリシア哲学の伝統を護持したことから〈ディアドコス(伝統継承者)〉という称号を得ている。シュリアノスSyrianosの門下で新プラトン主義哲学を修め,理論ばかりではなく実践においても〈一者〉との神秘的合一を求めた。晩年アカデメイアの学頭になったが,異教神アテナをまつったとがで当局から告発され,追放刑に処されている。古今にわたる博覧強記と熱烈な求道心が結びついた多くの著作が残され,中世,特にルネサンス期のプラトン主義復興運動に大きな影響を与えた。代表作としては《神学原論》《プラトン神学》などの形而上学的著作がある。またプラトンの《ティマイオス》《国家》《パルメニデス》への注釈,さらにエウクレイデス(ユークリッド),ニコマコス,プトレマイオスの業績に対する数学的・天文学的研究も重要であり,とりわけ《エウクレイデス“ストイケイア”第1巻注釈》は古代科学史研究に不可欠のものとされている。
執筆者:大沼 忠弘
2世紀ごろのギリシアの学者。生没年不詳。《クレストマテイア》と題するギリシア文学案内4巻の作者。最初の2巻が9世紀のコンスタンティノープル総主教フォティオスの抜粋によって伝わっている。古代末期に編纂されたこの種の多くの摘要集中,伝存する最古のもの。詩と散文の相違を序論的に述べ,叙事詩および抒情詩の代表的詩人と伝記を扱う。また,散逸した叙事詩圏の詩の梗概が添えられ,貴重な資料である。
執筆者:高橋 通男
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…この公準は他の公準に比べてすこぶる複雑で,その自明性に疑いがもたれた。このため,第5公準は他の公準から証明できる定理ではないかと考えられ,4世紀のプロクロスProklos(410か411‐485)以来その証明が執拗に試みられた。この間に第5公準は〈直線外の1点を通ってその直線に平行な直線はただ1本である〉とか〈三角形の内角の和は2直角である〉という命題に同値であることがわかったが,本来の目的は達せられなかった。…
…この公準は他の公準に比べてすこぶる複雑で,その自明性に疑いがもたれた。このため,第5公準は他の公準から証明できる定理ではないかと考えられ,4世紀のプロクロスProklos(410か411‐485)以来その証明が執拗に試みられた。この間に第5公準は〈直線外の1点を通ってその直線に平行な直線はただ1本である〉とか〈三角形の内角の和は2直角である〉という命題に同値であることがわかったが,本来の目的は達せられなかった。…
…一つ一つの哲学はどれもそれぞれユニークであって,その多彩さに人は目くるめく思いに打たれるかもしれない。アリストテレスにとどまらず,さらにギリシア哲学の展開の跡をたどっていけば,最後にプロクロスに行き当たることになる。プロティノスの新プラトン主義の哲学を整理し体系化したこの哲学者の没年は後485年だが,この哲学の究極の原理,始原は言うまでもなく〈一者(ト・ヘンto hen)〉であり,その一者から比喩的に言えばいっさいが流出し,いっさいはまたその一者に帰る。…
…プロティノスは感覚的世界と超感覚的世界のもう一つうえに絶対的一者をおき,人間の魂は脱自によって一者と合一するとした。この思想はプロクロスを通して5世紀末,ディオニュシウス・アレオパギタの名をかりた著作家によってキリスト教的に変容された。偽ディオニュシウスによれば,神はいっさいの規定を超えており,善とも存在ともいうことはできない。…
…ポルフュリオスの弟子イアンブリコスは《エジプト人の密儀について》によって古代異教神学を集大成した。5世紀にはプロクロスがこの伝統を継承し,プラトン解釈史に画期的業績を残した。ユスティニアヌス帝の勅令によるアカデメイアの閉鎖(529)など6世紀の異教弾圧で,西方世界にはこの伝統は表だってはとぎれてしまうが,アウグスティヌス,ボエティウス,偽ディオニュシウス・アレオパギタなどの著作を通してキリスト教の教義形成に無視できない影響を与えたほか,東方キリスト教会にはフィロカリアという形で受け継がれ,さらにイスラム世界に入って,スーフィズムの哲学的原理として発展した。…
※「プロクロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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