日本大百科全書(ニッポニカ) 「デュモン」の意味・わかりやすい解説
デュモン
でゅもん
Louis Dumont
(1911―1998)
フランスの文化人類学者。ギリシアのテッサロニキに生まれる。晩年のマルセル・モースに師事し人類学に眼(め)を開かれた。第二次世界大戦時、ドイツ軍捕虜として抑留中、ヒンドゥー学者と知り合いサンスクリットの手ほどきを受け、インド学を志す。戦後、「民間伝承博物館」の学芸員をしながら南フランスのタラスコン地方で伝統的な祭りを研究し、その成果を1951年に『タラスク』として刊行した。1949年から1950年代、数回にわたりインドで現地調査を行い、その成果をイギリスで教職に就いていた間に学位論文『南インドの下位カースト』にまとめた。1955年パリの社会科学高等研究院に職を得て、1957年にはポコックと共同でインド研究の専門誌『インド社会学への寄与』を発刊し、この誌上で古典学的発想とは異なるインド社会学、カースト体系論についての論争的な論文を発表した。1966年に刊行された主著の一つ『ホモ・ヒエラルキクス』(階層的人間)はその集大成である。そこではインド社会の根幹が、「浄と不浄」という観念を基礎に形づくられた価値の体系としてのカースト体系にあると主張されている。1960年代後半には、親族関係を価値の体系として分析する視点が探求された。フランス構造主義の泰斗レビ・ストロースと不即不離の立場にたち、親族関係研究においてもその継承・発展者を自認している。1970年ごろから、カースト体系の対極としての西欧社会における「個人主義イデオロギー」の生成展開に関心を向け、1977年刊行の『ホモ・エクワリス』(平等的人間)では、西洋の価値体系における宗教からの政治の自立、さらに政治からの経済の自立がどのように展開したかという主題をたて研究した。その過程は、学としての経済学の成立の過程ととらえられると同時に、宗教に包摂された共同体からの「経済的主体」としての「個人」の自立の過程ととらえられる。そのことはとりわけ1983年に刊行された『個人主義論考』で議論されている。1991年にはフランス的個人主義とドイツ的価値体系を比較した『ドイツ・イデオロギー――ホモ・エクワリス2』を刊行した。デュモンのカースト体系論は、インド研究者にとって批判的検討を行うべき古典とみなされている。後期に展開した近代社会の比較文化研究の視点も、今後さらに本格的な検討が行われる必要があろう。
[渡辺公三 2018年12月13日]
『ルイ・デュモン著、渡辺公三訳『社会人類学の二つの理論』(1977・弘文堂)』▽『浅野房一・渡辺公三訳『個人主義論考――近代イデオロギーについての人類学的展望』(1993・言叢社)』▽『ルイ・デュモン著、竹内信夫・小倉泰訳『インド文明とわれわれ』(1997・みすず書房)』▽『田中雅一・渡辺公三訳『ホモ・ヒエラルキクス――カースト体系とその意味』(2001・みすず書房)』