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トロピカリズモ とろぴかりずもtropicalismo

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

トロピカリズモ
とろぴかりずも
tropicalismo

1960~70年代ブラジルの音楽・芸術思潮。トロピカリア運動ともいう。元来トロピカリズモという言葉は、1930年代には、文化人類学の用語で南米熱帯に固有の生活文化を指すものとして使われていた。その後60年代後半から、音楽・美術を横断する新しい運動を指すようになる。そのためもともとの文化人類学的概念としての「トロピカリズモ」と区別するために「批判的トロピカリズモ」という場合もある。
 一般的にトロピカリズモが指し示すのは、カエターノ・ベローゾ、ジルベルト・ジルらを中心とした音楽スタイルである。これは、バイア州を中心としたブラジル北東部のアフロ・ブラジリアン音楽文化とロックやファンクが混交したものである。また複雑な人種・民族、地方色、階級を反映したムジカ・ポプラール・ブラジレイラの歴史のなかで、政治・社会的な主張としては最も突出した存在であった。
 ポピュラー・ミュージックの枠組みのなかでベローゾ、ジルらは、50~60年代に流行したボサ・ノバをロックやブラック・ミュージック的に展開すると同時に、バイア州などの北東部のカーニバル音楽、日常的なアフロ・ブラジリアン音楽文化を前面に押し出そうとした。そうした彼らの音楽的動向にはまとまった名称がなかったが、同時期に別の動きをしていた現代美術の動向が名前を与えることになる。この経緯について、ベローゾは、リオ・デ・ジャネイロ出身の造型作家・パフォーマーのエリオ・オイチシカHelio Oiticica(1937―80)のインスタレーション『トロピカリア』との連動を明かしている。オイチシカは、50年代にネオ・コンクレーテ(新具体派)を経て、独自の表現を模索し、美術における新たな運動をトロピカリズモとして展開した。オイチシカらの現代美術における「トロピカリズモ」は、50年代スペイン語圏を席巻した美術傾向であるネオ・ヒューマニズムと「反芸術」との連係を目指す、ブラジルに独自の動きとして表れた。オイチシカはリオ・デ・ジャネイロの代表的なサンバ・スクール(エスコーラ)であるマンゲイラにも参加して、サンバの身体表現やファベーラ(スラム街)における生活形態などを取り入れたインスタレーションやパフォーマンスを展開した。オイチシカらのアートは、現実に根ざし、ブラジルならではの形態を生み出そうとするものであり、ポピュラー・ミュージックでの動きと通底していた。
 このように、トロピカリズモは、ポピュラー・ミュージックと現代美術にまたがる思潮であり運動であったが、同時に当時の軍事政権に抵抗する運動でもあったため、検閲によって提唱者たちは迫害されたり、亡命を余儀なくされた。しかし、音楽、美術ともに世界に与えた影響は大きなものがあった。[東 琢磨]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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