改訂新版 世界大百科事典 「ノガン」の意味・わかりやすい解説
ノガン (鴇/野雁)
ツル目ノガン科の鳥の1種,またはノガン科の鳥の総称。ノガンOtis tarda(英名great bustard)は全長約100cm(雄)。雌は雄よりひとまわり小さいが,雌でも大型のガンほどの大きさがある。頭頸(とうけい)部は灰色,背以下の背面は黄褐色で細かい白と黒の横斑があり,腹は白い。初列風切は黒いが,次列風切は大部分が白色。雄は口もとに白いひげがあり,胸には褐色帯がある。
ユーラシア大陸の中緯度地方の大草原で繁殖し,冬季は多少温暖な地方に移動する。日本にはまれに迷鳥として渡来する。広大な草原や耕地を好み,ふつう家族群または十数羽の小群で地上に降りて餌をあさっている。食物は,主として種子,コーリャンやダイズなどの農作物,植物の若葉や若根など植物質のものだが,地上の昆虫類や小動物もかなり食べている。飛翔(ひしよう)力はきわめて強く,警戒心も強く,危険を感ずると非常に遠くに飛び去る。繁殖期には,雄の前頸部の食道が膨れてのど袋となる。雄は,5~6羽の雌の前で,のど袋を膨らませ,翼を広げ,尾羽を立てて,ディスプレーをする。このディスプレーは夕方行われることが多く,月夜の晩には夜中まで続く。ノガンは一雄多雌の鳥で,雄はディスプレーによって雌を獲得し,つがいとなる。つがいになった雌は,灌木の陰や木の根もとなどの地面に,浅いくぼみをつくって巣とし,1腹3~4個の卵を産む。抱卵が始まると雄は雌から離れ,他の雌とつがいになる。抱卵,育雛(いくすう)は雌だけで行い,綿羽におおわれた雛は,孵化(ふか)後まもなく雌について巣を離れる。抱卵期間は約27日。
ノガン科Otidaeは約10属23種からなり,ユーラシア大陸,アフリカ,オーストラリアに分布している。とくにアフリカにすむものが多い。どの種も広い草原,耕地,半砂漠などにすみ,大部分は留鳥だが,ユーラシアの北のほうで繁殖する種は比較的短い渡りをする。体つきはみなノガンに似て,くびが長く,体は太く,脚も太く長い。種によってはいろいろな飾羽をもっている。習性も一般にノガンに似ているが,ディスプレーは種によって違い,一部の種は一雄一雌である。
最大種はオオノガンArdeotis koriで,アフリカに分布する。フサエリノガンChlamydotis undulataはくびに黒い飾羽があり,カナリア諸島および北アフリカから西アジアにかけて分布する。日本では,ノガンのほかに,かなり小型(全長約48cm)のヒメノガンO.tetraxが迷鳥として1回採集された。この種は,南ヨーロッパおよび北アフリカから西アジアにかけて分布している。大型のノガン類は,狩猟や生息地の減少のために,世界的に数が少なくなっている。なお,英語でwild gooseと呼ばれるのはハイイロガンのことで,ノガンのことではない。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報